第68話 とても綺麗です!
夕食のあと、年かさの侍女が、フェイを湯殿へ案内した。
「殿方の湯殿は、こちらでございます。どうぞ、ごゆっくり」
侍女は、深々と頭を下げて去っていった。去り際に、口の端がぴくりと動いた気がした。
脱衣場で服を脱いで、手ぬぐいを1枚持つ。寮の風呂は、洗い場に桶が並んでいるだけだ。王宮の湯殿は、いったいどれくらい大きいのだろう。
フェイは、わくわくしながら奥の扉を開けた。
むわっと、湯気が顔に押し寄せてきた。香草の、すっとする匂いがする。
広かった。寮の食堂くらいある。床も壁も白い石で、真ん中に、乳白色の湯をたたえた大きな湯船があった。
その湯船に、頭が3つ浮かんでいた。
湯気が、ゆっくりと晴れていく。
濡れた髪を片側に寄せた王妃。その隣に、ソフィア。少し離れて、メイベル。3人とも、肩までお湯に浸かっていた。
フェイと、6つの目が合った。
「きゃあああっ!」
「フェ、フェイ様!?」
ソフィアとメイベルが、鼻の下までお湯に沈んだ。ぶくぶくと、泡が立つ。
「ご、ごめんなさい! 殿方の湯殿だって言われて――」
「あら、フェイさん。いらっしゃい」
王妃だけが、少しも慌てていなかった。
「せっかくだから、温まっていきなさい。お湯は濁っているから、平気よ」
「お母様!?」
「王妃の言うことが、聞けないのかしら?」
そう言われると、フェイには断り方が分からなかった。
手ぬぐいで前を押さえたまま、湯船のいちばん端に、そろそろと沈む。お湯は、思っていたより熱かった。
目のやり場が無くて、天井を見上げる。天井の石にも、細かい花の模様が彫ってあった。
「フェイさんは、女性とお風呂に入ったことはあるの?」
「む、昔、おばあちゃんとならあります!」
メイベルが、お湯の中で小さく噴き出した。
「おばあ様と。……そう」
王妃は、楽しそうに目を細めた。
「では、ソフィアとメイベル、それに私を見て、どう思う?」
フェイは、天井から目を下ろした。
湯気の向こうに、3人がいた。上気した頬。濡れて光る髪。ソフィアとメイベルは、真っ赤になってこちらをにらんでいる。
嘘のつき方を、フェイは知らなかった。
「とても綺麗です!」
ソフィアの顔から、湯気が出た。メイベルは、口までお湯に沈んで、ぶくぶくと泡を立てた。
「あら、ありがとう」
王妃が、首をかしげて微笑んだ。濡れた髪がひと筋、白い首すじに貼りついている。学園の誰とも違う、ゆったりとした笑い方だった。
フェイの頬が、かあっと熱くなった。お湯のせいだけではなかった。
その顔を見て、ソフィアとメイベルの目が、すうっと細くなった。




