↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/216

第67話 山で泣くと

「おじいちゃんだ……」


 フェイは、絵に顔を近づけた。今のおじいちゃんの髪は真っ白で、こんなに長くもない。それでも、本を抱える腕の形が同じだった。山の家でも、おじいちゃんはいつも、こうやって本を抱えて歩く。


「若いころのバルタザールだ。よく似ているだろう」


 後ろから、低い声がした。


 振り返ると、国王オスヴァルトが立っていた。供の騎士を、廊下の向こうに待たせている。ソフィアとメイベルが、さっと頭を下げた。フェイも、慌ててそれにならった。


「陛下! お、お邪魔してます」

「うむ。今日は、空から降ってこなかったそうだな」


 国王の口の端が、少しだけ上がっていた。


「その絵はな、私の父の代に描かせたものだ。バルタザールは、若いころ、何度もこの国を救ってくれた」

「何度も? どうやってですか?」

「それが分からんのだ。本人が、話したがらなくてな」


 国王は、絵の前に並んで立った。


「私が子どものころの話なら、できる。8つの年の鹿狩りで、私は山で迷子になった」


 霧の濃い朝だった、と国王は言った。供の者とはぐれて、気づいたら、知らない沢の前にいた。


「怖くて、声を上げて泣いた。そうしたら、藪の中から、大きな男が出てきた」


 男は、泣いている王子を見下ろして、こう言ったという。


「山で泣くと、獣が寄ってくる」


 フェイは、思わず声を上げていた。


「それ、おじいちゃんの口ぐせです! おれも、小さいころ、何回も言われました!」


 国王の目が、少しだけ丸くなった。


「そうか。……あの男は、変わっておらんのだな」

「それから、どうなったんですか?」

「肩車をされて、狩り場まで送り届けられた。道々、ずっと叱られていたよ。迷子になったことではなく、ひとりで沢に近づいたことをな」


 フェイは、肩車の高さを思い出した。おじいちゃんの肩の上からは、山の向こうの、ずっと遠くの尾根まで見えた。


 あの肩に、この国の王様も乗っていた。


 胸のあたりが、ぽかぽかと温かくなった。勝手に、顔がにやけてくる。


「ずいぶん嬉しそうね、フェイ」

「うん! だって、おじいちゃんの話なんて、山じゃ誰もしてくれないから」


 ソフィアが、くすりと笑った。メイベルも、目を細めている。


 廊下の向こうから、衣ずれの音が近づいてきた。王妃だった。


「あら、陛下。お話はすみました?」

「ちょうど終わったところだ」

「よかった。フェイさん、今夜はゆっくりしていってね。お風呂も、用意させてあるから」


 王妃は、にっこりと笑った。


 ソフィアの笑顔が、すっと消えた。


「……お母様。その顔は、何かたくらんでいる顔です」

「まあ、ひどい。何もたくらんでなんかいないわ」


 王妃は、扇で口もとを隠した。扇の上の目だけが、とても楽しそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。