第65話 夏休み
終業の鐘が鳴ったとたん、教室じゅうで椅子を引く音がした。
魔法大会から、10日が過ぎていた。明日から、夏休みだった。
「休みのあいだ、どうするの?」
「領地に帰るに決まってるだろ。父上に、大会の話をしなきゃならない」
「うちは湖のそばの別荘。毎年、同じ顔ぶれで退屈なのよね」
あちこちで、そんな話が飛び交っている。窓から入ってくる風が、乾いた草の匂いを運んできた。山の夏と、同じ匂いだった。
フェイは、鞄に教科書を詰めながら、山のことを考えていた。おばあちゃんの畑では、もう瓜が太っているころだ。おじいちゃんは、相変わらず朝の見回りをしているだろう。
「フェイは、山に帰るの?」
ソフィアが、机の横に立っていた。後ろに、メイベルもいる。
「うん。明日の朝、出ようと思って」
「その前に、これを」
ソフィアが差し出したのは、白い封筒だった。封蝋に、王家の紋が押してある。
「お母様から。あなた宛てよ」
封を切ると、中の紙から、ほんのり花の香りがした。
――夏休みのはじめに、王宮へ遊びにいらっしゃい。山へ帰るのは、そのあとでも遅くないでしょう。バルタザール様のお若いころのお話も、聞かせてあげられると思うわ。
最後に、イザベラ、と流れるような字で書いてあった。
「おじいちゃんの話!?」
フェイは、椅子から半分立ち上がっていた。
「王妃様、おじいちゃんの昔のこと、知ってるの?」
「私も詳しくは知らないの。でも、お父様はよく知っているみたい」
「行く! 行きます!」
ソフィアが、ほっとしたように笑った。メイベルは、なぜか小さくため息をついた。
「……王妃様のお誘いですから、何事もなければよいのですけれど」
「何事って?」
「いえ。何でもありません」
教室の扉のところで、リアが腕を組んで寄りかかっていた。
「王宮のあとは、うちに来なさい」
「リアの家?」
「父が、あなたに会いたがってるの。それに……私も、見せたいものがあるし」
リアはそれだけ言うと、ぷいと廊下へ出ていった。
ソフィアとメイベルが、顔を見合わせた。
「見せたいもの、ですって」
「見せたいもの、だそうです」
2人の声が、なぜかそろって低かった。




