第60話 決勝
試合は、昼過ぎまで続いた。
結界の中で、炎が渦を巻き、水が柱になり、風が砂を巻き上げた。そのたびに客席が沸いて、焼き菓子の売り子が忙しそうに走り回った。
勝ち残ったのは、やはりあの2人だった。
「決勝! 3年、オリヴィエ・ヴァイスベルク! 2年、クラリッサ・グラウベルク!」
結界の東から、会長が入っていく。片手を上げて客席に応えると、黄色い声が降ってきた。
西から、クラリッサが入ってくる。結界の手前で、ギュンターが膝をついて、クラリッサの手袋の留め具を直していた。
「お嬢様なら、必ず」
「分かってるわ、ギュンター。去年の借りは、今年返す」
ギュンターは、深く頭を下げた。顔を上げたとき、片眼鏡の奥の目が、ちらりと東の端へ動いたのを、フェイは見た。
フェイは、結界の四隅を、もう一度見て回った。
4つの魔石は、どれも澄んだ青に光っている。鼻を近づけても、あの匂いはしなかった。
「始め!」
開始の声と同時に、クラリッサの足もとから、霜が走った。
白い霜が、地面を這って会長へ向かう。会長は、ひらりと跳んでそれを避けた。手のひらを返すと、そこに光が集まって、細い槍の形になる。
光の槍が、3本、4本と放たれた。クラリッサが手を払うと、目の前に氷の壁が立ち上がって、槍を受け止める。氷が砕けて、きらきらと客席の方まで光の粒が舞った。
「やるじゃないか、クラリッサ君!」
「余裕ぶっていられるのも、今のうちよ!」
クラリッサが、両手を地面についた。
結界の中の空気が、一気に冷えた。客席にいても、吐く息が白くなる。地面から、氷の柱が何本も突き出して、会長を囲んでいく。
会長が、初めて足を止めた。
柱の檻の中で、会長は笑っていた。両手を胸の前で合わせる。長い詠唱が始まった。手のひらのあいだに、光がふくらんでいく。
昼間なのに、演習場が暗くなったように感じた。会長の手の中の光が、それほど眩しかった。
そのとき、風が東から吹いた。
フェイは、足を止めた。
果物の皮みたいな匂い。鼻を刺す匂い。
四隅の魔石からではなかった。会長が立っている、その足もとの地面から、匂いが立ちのぼっていた。
会長の足の下の土が、ほんのわずかに、青く光っていた。




