第54話 私たちからもお願いします
「見事だったよ、フェイ君」
会長は、割れた魔石の前にしゃがみこんだ。ひびの入った青い石を、指先で軽く叩く。こつ、と乾いた音がした。
「これで、4度目だ」
「4度目ですか?」
「大会の準備を始めてから、結界の魔石が割れたのはね。1度目は、新しい石を据えたばかりだった。2度目と3度目は、見回りを増やした後だった」
会長は立ち上がって、焦げた地面を見渡した。いつもの芝居がかった笑みが、どこにも無かった。
「けが人が出なかったのは、運が良かっただけだ。先生方からは、今年の大会は取りやめるべきだという声も出ている」
「中止になっちゃうんですか?」
「このまま続けばね。……でも、私はそうしたくない」
会長は、拳を軽く握った。
「大会を目指して、1年かけて腕を磨いてきた者がいる。それを、正体の分からない何かのせいで潰されたくない」
それから、会長はフェイに向き直った。
「さっき君は、誰よりも先に、魔石がおかしいと気づいていたね」
「なんか、変な匂いがしたので」
「匂い、か」
会長は、目を丸くした。それから、小さく吹き出した。
「魔力で結界を見張っていた先生方は、誰も気づかなかった。それを、鼻で」
会長は、胸に手を当てた。今度は、芝居がかってはいなかった。
「フェイ君。……君、生徒会に協力してくれないか?」
フェイは、まばたきをした。
「おれ、生徒会には入らないって言いましたよ?」
「入らなくていい。大会が無事に終わるまで、手を貸してほしいんだ。魔力の無い君にしか、見えないものがある気がする」
フェイは、困って頭をかいた。
協力。見回り。たぶん、また紙をめくったり、話し合ったりするのだろう。そういうのは、やっぱりよく分からない。
フェイは、横を見た。
ソフィアと、メイベルと、リアが、そこにいた。3人とも、さっきまで会長をにらんでいたのが嘘みたいに、まっすぐフェイを見ていた。
ソフィアが、1歩前に出た。
「フェイ。私たちからもお願いします」
「お願いします、フェイ様」
「大会、みんな楽しみにしてるのよ。私も、ちょっとだけね」
リアが、肩をすくめて付け足した。
フェイは、3人の顔を順番に見た。それから、にっと笑った。
「分かりました。やります」
会長の顔が、ぱっと明るくなった。
「ありがとう、フェイ君! では早速、今夜から会場の見回りを頼みたい!」
「今夜ですか?」
「魔石が割れるのは、決まって夜が明けた後だ。つまり、細工は夜にされている」
会長は、割れた魔石を掲げて、にやりと笑った。
「犯人は、夜に来る」




