第51話 一応、魔法大会なのでね
手洗い場の冷たい水で、フェイは顔を3回洗った。
耳はまだ熱かった。指でつまむと、自分の耳じゃないみたいにじんじんしている。鏡の中の顔は、熟れすぎた林檎の色だった。
廊下に戻ると、3人と会長が、さっきと同じ場所で待っていた。
「おかえり、フェイ君。驚かせてしまったね」
会長は、まるで何事も無かったように片手を上げた。リアは涼しい顔で髪をいじっていて、ソフィアとメイベルは、まだ会長をにらんでいる。
「さて、本題だ。フェイ君、生徒会に入らないか?」
「せいとかい?」
「学園の行事を取り仕切る集まりだよ。君のような生徒がいてくれると、心強い」
フェイは、少し考えた。行事を取り仕切る。机に向かって、紙をめくって、話し合う。山で薪を割っている方が、ずっと性に合っている。
「お気持ちはありがたいですが、お断りします」
「……お断り?」
「おれ、そういうのはよく分からないので。すみません」
会長の笑顔が、一瞬だけ固まった。断られたことが、あまり無いのかもしれない。ソフィアが、横で小さく拳を握っていた。
「そうか。……いや、残念だ。実に残念だ」
会長は額に手を当てて、天井を仰いだ。それから、ぱっと顔を戻す。
「では、もう1つの用件だ。こちらは、少し言いにくいのだけれどね」
「何でしょうか?」
「来月、学園で魔法大会が開かれる。全学年から腕に覚えのある者が出て、1対1で競う催しだ」
廊下の掲示板に、大きな紙が貼ってあった。剣の代わりに、手のひらから炎を吹き上げる生徒の絵が描いてある。
「君は、出場禁止だ」
フェイは、まばたきをした。
「おれだけですか?」
「君だけだ。君の魔力量は0。大会では、出場者の魔力を測ってから組み合わせを決める。0では、組み合わせようが無い」
会長は、申し訳なさそうに肩をすくめた。
「君が強いのは知っている。野外実習の話も聞いた。それでも……一応、魔法大会なのでね」
「分かりました。大丈夫です」
あまりにもあっさりした返事に、会長がまた固まった。
「……いいのかい?」
「はい。見ている方が楽しそうなので」
会長はしばらくフェイの顔を見つめていたが、やがて、ふっと笑った。
「やっぱり、君は面白いな」
去っていく背中を見送りながら、リアがぽつりと言った。
「会長が振られるところ、初めて見たわ」




