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第48話 新しい制服

 実習から帰って、2日目の朝。


 フェイは、山から持ってきた服で教室に座っていた。首まわりの丸い、袖の短いTシャツに、継ぎの当たったズボン。紺色の揃いの中で、1人だけ色が抜けている。入学してから着てきた2着の制服が、もうどちらも残っていなかった。


 扉が開いて、おしゃべりが止んだ。


 夜の色をした長い髪。リアが、平たい箱を両腕に抱えて入ってくる。机のあいだを真っすぐ抜けて、フェイの机に、とん、と箱を置いた。


「はい、これ」

「なに?」

「開けてみて」


 蓋を持ち上げると、紺色の布が目に入った。上着とズボンが、きっちり畳まれている。指で触れると、前の2着よりずっと目が細かくて、なめらかだった。新しい布の、糊の匂いがした。


「制服!?」

「うちの仕立て屋に頼んだの。森で、あんな格好のまま帰ってきたでしょう」

「でも、おれ、寸法なんて測ってないよ」


 リアは、ほんの少しだけ目をそらした。


「……測らなくても、分かるわ。ノクターン家は、王家の目なのよ」


 そう言う頬が、うっすら赤かった。


 窓際の席で、ソフィアの手の中の羽ペンが、ぱきりと鳴った。


「シャツは間に合わなかったから、今日は上着とズボンだけね。ちゃんと着てよ?」


 リアは、ソフィアとメイベルの方へ、ふふん、と笑ってみせてから、自分の教室へ戻っていった。


 午後の座学は、ひどく暑かった。


 窓から入る日差しが、ちょうどフェイの背中に当たる。新しい上着の中が、じんわり蒸れてきた。フェイは上着を脱いで、椅子の背にかけた。


 ずり落ちかけた上着を、後ろの席のメイベルが拾ってくれた。畳み直そうとして、その手が止まった。


 裏地の左胸。心臓の上あたりに、紫の糸で、小さな薔薇がひとつ縫いとられていた。その下に、細い飾り文字で「V」。


「……姫様」


 メイベルが、隣のソフィアの袖を引いた。ソフィアが、裏地をのぞきこんだ。


 ソフィアは、上着をつかんで立ち上がった。


「先生。気分が悪いので、早退します」

「わ、わたくしも、付き添います」

「え、ちょっと、それ、おれの上着――」


 2人は振り返らなかった。上着を抱えたまま、教室を出ていってしまった。扉が、ぱたんと閉まった。


 先生は、黒板の前で白墨を持ったまま、口を半分開けていた。


「……続けるぞ」


 残りの授業を、フェイはTシャツと、制服のズボンで受けた。上は山、下は学園。窓ガラスに映った自分は、どう見ても途中で着替えをやめた人だった。


「また脱がされてる……」

「今度は、王女殿下に……」


 ひそひそ声が、後ろから首すじに当たる。


 放課後の廊下は、風がよく通った。むき出しの腕に、鳥肌が立った。


「おれの上着……」


 呟いても、誰も答えてくれなかった。

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