第47話 ちょっと、調べるわ
「フェイ!」
森の向こうから、声が近づいてきた。
ソフィアとメイベル、リア。その後ろから、長い髪を揺らして、ノエル先生が駆けてくる。
「今の音は何!? 森が、いきなり……」
先頭のソフィアが、窪地の縁で足を止めた。
メイベルも止まった。リアも、先生も止まった。
4人の目が、フェイを見た。それから、そろって下へ動いた。
「き――」
「きゃああああっ!」
ソフィアとメイベルが、同時に両手で顔を覆った。リアは顔を背けたけれど、耳まで真っ赤で、横目だけはこちらに残っていた。
「わ、わっ、見ないで!」
フェイは、慌ててしゃがみこんだ。
先生だけが、悲鳴を上げなかった。眼鏡の奥で2度まばたきをすると、自分の上着を脱いで、つかつかと歩いてくる。
ふわりと、肩に上着がかけられた。ほんのり温かくて、花のような匂いがした。
「……よくやったな、フェイ」
先生は、消し飛んだ森と、倒れたシエルと、頬に傷を負った先輩を見回してから、そう言った。言いながら、目がちらちらと、フェイの膝のあたりへ落ちていた。
「先生?」
「なんでもない。前を隠しなさい」
眼鏡を指で押し上げた先生の頬が、少しだけ赤かった。
「入学のとき、君には見学でいいと言ったね。……撤回しよう」
先輩が、かちりと剣を鞘に納めた。
その途端、まっすぐだった背中が、しぼむように丸くなった。
「あ、あの、す、すみません……! 2年の、ブリジット・アイゼンガルトです……! た、助けていただいて……!」
ブリジットは頭を下げては、ちらりとフェイを見て、また真っ赤になってうつむく。それを何度もくり返していた。
足もとで、シエルが目を開けた。
「ん……わたくし……」
「シエル、しっかりして」
ソフィアが駆け寄って、背中を支えた。シエルはぼんやりと辺りを見回して、上着1枚のフェイを見つけた。
「あ、あの……聖女の、シエルと申します……あの、あの……」
シエルの目は、フェイの顔と上着の裾のあいだを、何度も往復していた。
「……はぅ」
また、ぱたりと倒れた。
リアだけが、少し離れたところにいた。
切り倒された木の前にしゃがんで、切り口を指でなぞっている。刃物で切ったにしては、なめらかすぎる切り口だった。
「ブリジット先輩。相手の魔法、見えなかったのよね?」
「は、はい……風の音だけで……あいつ、紙に何か書いてて……み、見つかったら、いきなり……」
リアの指が、切り口の上で止まった。
「見えない斬撃……魔導国でよく使われる風魔法よ」
「魔導国って?」
「オルドラン魔導国。この国より、もっと魔法に偏った国」
リアは立ち上がって、スカートの土を払った。それから、男が吹き飛んでいった方角へ、目を細めた。
「ちょっと、調べるわ」




