第46話 飛んでっちゃった
「あぁ!」
先輩の声が、裏返った。
土煙が、風に流されて薄れていく。
その真ん中に、フェイは立っていた。
背中が、ちょっとだけくすぐったい。手を見る。足を見る。どこも切れていない。
ただ、風がやけに涼しかった。
「……あれ?」
見下ろすと、何も無かった。
上着も、シャツも、ズボンも、靴下まで。細切れになった紺色の布が、足もとにひらひらと散らばっていた。
「あぁ! 服が!?」
フェイは、頭を抱えた。
「また!? またなくなっちゃった! この制服、まだ2着目なのに!」
「だ、だ、だいじょうぶなのか?」
先輩が、剣を構えたまま声を震わせていた。
「あれを全部、背中で……け、怪我は……」
その後ろで、シエルがフェイを見上げていた。口が、ぱくぱくと動いている。
「あ、あわ、あわわわわ……」
顔が、見る見るうちに赤くなっていく。
フェイは振り返って、にこっと笑った。
「うん! なんともないよ」
先輩の目が、フェイの笑顔で止まった。
それから、すうっと下へ動いた。
止まった。
先輩の顔が、耳の先まで真っ赤になった。剣を握ったまま、ばっと下を向く。
シエルのほうは、両手で顔を覆っていた。覆っているのに、指のあいだが大きく開いていて、その目がまっすぐ、フェイの下半身に向いている。
「はぅうっぅ……」
シエルは、ことりと後ろへ倒れた。
「な、何!?」
フードの男が、後ずさった。
「全部食らって、傷ひとつ無いだと……? あいつ、やばいぞ……!」
男は身をひるがえして、森の奥へ駆け出そうとした。
フェイは、男のほうへ向きなおった。右の拳を、腰の横に引く。
「ふんっ」
まっすぐ、突き出した。
拳の先で、空気が爆ぜた。
ごう、と森が鳴った。窪地の向こうの木々が、根こそぎまとめて吹き飛んだ。土も、岩も、茂みも、拳の先にあったものが全部、一直線に消し飛んでいく。
「うわぁぁあ――……」
フードの男の悲鳴が、風に巻かれて、空の向こうへ小さくなっていった。
ぽっかりと開いた一本道に、日の光が差しこんだ。舞い上がった土が、ぱらぱらと降ってくる。
フェイは、拳をほどいた。
「……あ。飛んでっちゃった」




