第45話 隙を出しすぎだ
その音を、フェイは森の反対側で聞いた。
キン、と高い音。少し間を置いて、もう一度。
「今の、聞こえた?」
しゃがんで薬草を摘んでいたソフィアが、顔を上げた。
「何が?」
「金物の音。剣、かな。あっちのずっと奥」
ソフィアとメイベルが、耳を澄ませた。リアも、首をかしげている。3人とも、何も聞こえないようだった。
キン。キン、キン、キン。
音の間が、詰まってきた。狼に追われた鹿の足音が、乱れていくときと同じだった。
「ちょっと行ってくる!」
「え、フェイ!?」
「フェイ様、組から離れては――」
メイベルの声を背中に聞きながら、フェイは地面を蹴った。
近くの幹を蹴り、枝を蹴り、梢の上へ出る。最後の枝を蹴ると、体は森を抜けて、空高く舞い上がった。湿った葉の匂いが遠のいて、森が足の下で、緑の波みたいに広がっていた。
キン、キン、と音が近くなる。その合間に、ひゅっ、ひゅっ、と、風を切るような音が混じっていた。鳥でも矢でもない。聞いたことのない音だった。
窪地が見えた。
剣を構えた、背の高い女子生徒。その後ろで、小柄な女の子が地面にへたりこんでいる。
少し離れた木の陰に、フードの男がいた。男が手を振るたびに、ひゅっと風が鳴り、女子生徒の剣がそれを弾く。
何も飛んでいないのに、弾いている。女子生徒の頬と腕に、赤い線がいくつも走っていた。
剣で守る者と、守られる者。ノエル先生が言っていた、聖女のシエルと、その護衛の先輩だ。
フェイは、2人のすぐ横に降りた。
つま先から、ふわりと。落ち葉1枚、鳴らなかった。
先輩が、ぎょっとしてこちらを見た。フードの男も、手を止めた。目の前に立たれるまで、誰も気づいていなかった。
「な、なんだ、貴様……どこから……」
フェイは男には答えずに、先輩のほうを向いた。
シエルをかばっているから、前に出られない。だからずっと、受けているだけになっている。
「1年のフェイです! あいつは、おれがやります。先輩は引き続き、シエルの守りをお願いします」
「あ、ああ……」
先輩が、目を丸くしたまま頷いた。
フェイは男に、まるごと背中を向けていた。
「バカめ、隙を出しすぎだ!」
男の声と一緒に、風が鳴った。
ひゅっ、ひゅっ、ひゅっ、ひゅっ――。
数えきれないほどの風の音が、ひとつ残らず、フェイの背中に吸いこまれた。
土煙が、噴き上がった。
「いやあああっ!」
シエルの悲鳴が、森じゅうに響いた。




