↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/216

第43話 たらしこむって?

 噂は、昼休みが終わるころには学校じゅうに回っていた。


「聞いた? あの魔力無し、ヴィクトリア様だけじゃないんですって」

「王女殿下と、侍女の子まで?」

「3人よ、3人! しかも、たった1日で愛称呼び!」

「准男爵になったとたんに、3人もたらし込むなんて」


 廊下を歩くと、ひそひそ声がついてきた。振り向くと止む。前を向くと、また始まる。


 フェイは、隣を歩くソフィアの袖を引いた。


「ねえ、ソフィ」

「な、なに?」


 愛称で呼ばれるたびに、ソフィアの返事は少しだけ裏返る。


「たらしこむって、どういう意味?」


 ソフィアが、盛大にむせた。


 メイベルがその背中をさすりながら、ちらりとフェイを見た。


「……フェイ様は、知らなくていい言葉です」

「でも、おれのことなんだよね?」

「知らなくていい言葉です」


 メイベルはにっこり笑って、それ以上は何も言わなかった。


 ◆


 午後の授業の終わりに、教室の扉が開いて、背の高い女の先生が入ってきた。


 長い髪に、眼鏡。すらりとした立ち姿で教壇に上がると、ざわついていた男子たちが、なぜか静かになった。


 フェイは、その顔に見覚えがあった。初めての実技の授業で、名簿を見て少し困った顔をして、「……君は、見学でいい」と言った先生だ。


「実技を受け持っているノエルだ。来週、1年生全員で野外実習を行う。その引率をする」


 教室が、ざわっと沸いた。


「場所は、王都の東の森。4人で1組になって森に入り、課題の薬草を集めて戻ってくること。魔獣の出る区域ではないが、油断はしないように。それから、聖女のシエルの組には、2年のアイゼンガルトが護衛として付く。見かけても驚かないように」


 聖女、と誰かがささやいた。隣のクラスにいる、治癒魔法の使い手のことらしい。フェイは、まだ会ったことがなかった。


 ノエル先生は、眼鏡の奥から教室を見渡した。その目が、一瞬だけフェイの上で止まった気がした。


 けれど、すぐにそれどころではなくなった。


「森!」


 気がつくと、立ち上がっていた。


「森なら、おれ、得意だよ! 薬草も、食べられるキノコも、ぜんぶ分かる!」


 教室が、しんとなった。それから、あちこちでくすくす笑いが起きた。


「さすが山育ち」

「魔法の実習なのにね」


 フェイは気にせずに、ソフィアとメイベルを振り返った。


「ソフィ、メイ、一緒の組になろう!」


 2人は顔を見合わせて、同時に、ぱっと頬を染めた。


「も、もちろんよ」

「はい!」

「あと1人、どうしよう」

「それなら、私が入るわ」


 声は、教室の扉のほうからした。


 ヴィクトリアが、扉の枠にもたれて立っていた。いつからそこにいたのか、誰も気づいていなかった。


「学年全員の実習なら、クラスは関係ないでしょう?」


 ソフィアとメイベルが何か言うより先に、フェイが手を挙げていた。


「いいよ! これで4人だ!」


 ソフィアの口が、「あ」の形のまま固まった。メイベルが、小さく息をついた。


 教室の後ろで、誰かがささやいた。


「……また、たらし込んでる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。