第38話 准男爵
「さて」
国王が、段の下を見回した。
「狩猟会で王女を救い、今また、冤罪からノクターン家を救った者がいる」
その目が、柱の前に立っているフェイで止まった。
「フェイ。前へ」
「えっ。は、はい!」
フェイは、慌てて玉座の前へ進み出た。借り物の靴が大きくて、一度つまずきかけた。どこかで、ソフィアが小さく悲鳴を上げた。
段の下で、どう立てばいいのか分からずにいると、王妃が身振りで教えてくれた。片膝をついて、頭を下げる。フェイは、そのとおりにした。
「この者の功は、大なるものと認める。だが、騎士爵の者をさらに上げるには、上位の家の推挙が要る」
国王は、貴族たちの列を見渡した。
「推挙する家は、あるか?」
謁見の間が、しんとした。
魔力量0の平民上がり。誰もが、隣の者の顔をうかがっている。ヴァルモント公爵は、膝をついたまま、身じろぎもしなかった。
そのとき、列の後ろから、1人の男が進み出た。
夜の色をした髪に、白いものがまじっている。疲れのにじんだ顔だったが、背筋は、ヴィクトリアと同じようにまっすぐだった。
「ノクターン公爵家が、推挙いたします」
ヴィクトリアが、はっと顔を上げた。
「お、お父様……」
ノクターン公爵は、娘にほんの少しだけうなずいてみせてから、玉座に向かって頭を下げた。
「我が家と娘を救ってくれた恩人です。ノクターン家の名に懸けて」
「よかろう」
国王が、口の端を持ち上げた。
「アルセリア王国国王、オスヴァルト・アルセリオの名において。フェイ、そなたに准男爵の位を授ける」
フェイは、頭を下げたまま、首をかしげた。
「じゅん、だんしゃく?」
王妃が、また口もとを手で隠した。
「騎士爵のひとつ上の位よ。今度は一代限りじゃないの。あなたの子にも、孫にも続いていく。あなたの家が、できるのよ」
「おれの、家」
山の家を思い浮かべた。おじいちゃんとおばあちゃんと、竈と、洗濯物を干す縄。
あれとは、たぶん違う「家」なのだろう。それでも、フェイの胸の奥が、ほんのり温かくなった。
「ありがとうございます!」
勢いよく顔を上げたら、王冠の飾りが目の前にあった。国王が、身を乗り出してフェイを覗きこんでいたのだ。
「今度は、帰らずに最後までいたな」
「あっ」
狩猟会のことを言われているのだと気づいて、フェイは真っ赤になった。
「本当は、山の上ではなく、ここでやるものなのだ。あの日の分も、まとめてな」
国王は、愉快そうに笑った。
段の下で、ソフィアとメイベルが手を取り合って跳ねていた。ヴィクトリアは、両手で口を押さえていた。
その指の間から、小さな笑い声が漏れていた。




