第36話 謁見の間
国王オスヴァルトは、その夜のうちに3つのことを命じた。
捕まっている鷲鼻の男を、今すぐ城の牢へ移すこと。フェイが連れてきた男を、王妃付きの近衛だけで見張ること。そして、翌日の昼、ヴァルモント公爵とバルドリック子爵を、謁見の間へ呼び出すこと。
「内々に裁けば、どこかで揉み消される」
国王は、絨毯の上で気を失っている男を見下ろして言った。
「だから、皆の前で覆す」
◆
謁見の間は、学校の広間よりも、さらに天井が高かった。
柱が何本も並び、その間に、金や銀の刺繍の服を着た貴族たちがずらりと立っている。誰もが、何事かと囁き合っていた。
フェイは、柱の陰で、借り物の上着の襟を引っぱっていた。窮屈だった。
玉座には国王が、その隣には王妃が座っている。段の下に、ソフィアとメイベル。そして、その少し後ろに、ヴィクトリアが背筋をのばして立っていた。
ヴィクトリアの姿に気づいた貴族たちが、ざわめいた。
そのざわめきの中を、2人の男が進み出た。
白髪まじりの髪を撫でつけた、黒い詰め襟のヴァルモント公爵。その後ろに、額に汗を浮かべたバルドリック子爵。
公爵の顔は、昨夜とは別人のように穏やかだった。
「陛下。急なお召しとのことで、何事でございましょう?」
「狩猟会の件だ」
国王が手を上げると、扉が開いた。
近衛に引かれて、男が1人入ってきた。背の高い、鷲鼻の男。号外に書かれていた、捕まった刺客だった。
男は、ヴィクトリアを見て目を伏せた。それから、段の下に立つバルドリック子爵を見て、ほんの少しだけ口の端を緩めた。
国王が、もう一度手を上げた。
別の扉が開く。
2人目の男が、引き出されてきた。ずんぐりした身体に、右の頬の古い傷。
鷲鼻の男の顔が、凍りついた。
「お前……どうして、ここに」
「この男は昨夜、バルドリック子爵の屋敷の地下牢に、鎖で繋がれていた」
国王の声が、謁見の間に響いた。
「今夜のうちに始末しろ、死体は残すな。そう命じられていたそうだ」
鷲鼻の男が、ゆっくりとバルドリック子爵のほうを振り返った。
子爵は、目をそらした。
それだけで、十分だったらしい。
鷲鼻の男の膝が、がくがくと震えはじめた。相棒が消されかけていたのなら、次は自分の番だ。口を閉じていれば守ってもらえる、という約束が、嘘だったと分かったのだ。
「ち……違う」
男は、床に崩れ落ちた。
「ノクターン家の指示じゃない! 俺たちを雇ったのは、バルドリック子爵だ!」




