第29話 もう1人はどこ
「ヴィクトリアさん」
フェイは、茶碗を床に置いた。
「なんでヴァルモント家が怪しいってなったの?」
ヴィクトリアは、少しのあいだ迷っていた。それから、ソフィアとメイベルを見て、小さくうなずいた。
「目撃した者がいたの」
声をひそめる。
「犯人が捕まるほんの数日前に、王都の外れの酒場で、男が2人、ある貴族の家の者と会っていたの。背の高い鷲鼻の男と、頬に傷のある男。あなたが教えてくれたとおりの顔よ」
「ある貴族って?」
「バルドリック子爵家」
フェイは、思わず声を上げそうになった。
「グスタフの家!」
「ええ。バルドリック家はヴァルモント家の子分。あの家が自分だけで、王女を狙うなんて大それたことをするとは思えない。だから、本当に糸を引いているのはヴァルモント家だと読んだの」
ヴィクトリアは、膝の上で両手を握りしめた。
「でも、その数日後に、犯人は捕まった。捕まえたのは私の家じゃない。そして犯人は、ノクターン家の命令だと言った」
「じゃあ……捕まった人は、本物の犯人だけど、言ったことが嘘ってこと?」
「そういうことになるわね」
フェイは、机の上の号外に目をやった。
くしゃくしゃになった紙の、見出しの下。細かい字の並んだところに、ふと目が止まった。
――捕縛されたのは、背の高い、鷲鼻の男1名。
1名。
フェイは、号外を手に取った。何度読んでも、1名と書いてある。背の高い、鷲鼻の男。それだけだ。
「ねえ」
顔を上げる。
「あのとき、2人いたけど。もう1人は、どこ?」
部屋の空気が、変わった。
ヴィクトリアは、ゆっくりと首を横に振った。
「分からないの。号外を見て、捕まったのが1人だと知って、すぐにもう1人を探そうとしたわ。でも、そのときには、もう家の者は誰も動けなくなっていた」
頬に傷のある、ずんぐりした男。熊に手をかざして、指を赤く光らせた男。
フェイは、号外を握ったまま考えた。
バルドリック家の者と会っていた2人。そのうち1人だけが捕まって、ノクターン家のせいだと言った。それなら、もう1人は。
「……もう1人は、バルドリック家にいるんじゃないかな」
3人が、フェイを見た。
「だって、2人ともバルドリック家に雇われてたんでしょ? 1人が捕まったなら、もう1人は、雇った家が隠してるんじゃないかな。山の獣だって、怪我した仲間は巣に隠すもん」
フェイは、立ち上がった。
「おれ、見てくる」




