第28話 政敵
メイベルが、4人分のお茶を淹れてくれた。
寮の部屋に、湯を沸かす小さな魔法の炉があるのを、フェイは初めて知った。メイベルが指先で炉の縁に触れると、ぽっと青い火が点る。おじいちゃんが竈に火を点けるのと、同じだった。
湯気の立つ茶碗を両手で包んで、フェイは、さっきから気になっていたことを訊いた。
「ねえ、さっきのヴァルモント家って」
ヴィクトリアの手が、茶碗の上で止まった。
「グスタフの親分をしてる、レオンハルトって人の家だよね? 決闘の日に、メイベルが教えてくれた。なんで、その家が?」
答えたのは、ソフィアだった。
「ヴァルモント家はね、ノクターン家の政敵なの」
ヴィクトリアが、唇を噛みしめた。白い歯の跡が、下唇にくっきり残るほど強く。
フェイは、茶碗を持ったまま首をかしげた。
「せいてき、って?」
「政治の上での敵のことです」
メイベルが、言葉を選ぶように説明した。
「剣を向け合うような敵ではございません。でも、お互いに、相手より上に立とうとしている家同士のことです」
ソフィアが、それを引き取った。
「ノクターン家は王家の目、ヴァルモント家は王家の剣。どちらも、昔から王家をいちばん近くで支えてきた家なの。だから、どちらが王家の懐刀か、ずっと張り合ってる」
「ふところがたな」
「いちばん頼りにされる家、ってこと」
フェイは、なんとなく分かった気がした。山の群れの、いちばん強い2頭の雄みたいなものだ。
「王家は、どっちの味方なの?」
「どちらの味方もしないのが、決まりよ」
ソフィアは、茶碗を膝の上に置いた。
「どちらの家も、力が大きすぎるの。王家が片方に肩入れしたら、もう片方が黙っていない。国が2つに割れてしまう。だから、お父様もお母様も、ずっとどちらにも同じ顔をしてきた。私も、そう教わってきたわ」
それを聞いて、フェイは少しだけ肩を落とした。
ソフィアは王女だ。王家の決まりがあるなら、ソフィアはヴィクトリアの味方をしてはいけないのかもしれない。
「そっか。じゃあ、ソフィアは」
「でも」
ソフィアが、フェイの言葉をさえぎった。
まっすぐにフェイを見て、それから、ヴィクトリアを見た。
「フェイがヴィクトリアにつくなら、私もヴィクトリアにつくわ」
ヴィクトリアが、弾かれたように顔を上げた。
「ソフィア、それは……あなたの立場が」
「立場より、友だちのほうが大事」
ソフィアは、少しだけ頬を赤くして、ぷいと横を向いた。
メイベルが、くすりと笑った。
「姫様は、言い出したら聞かない方でございますから」




