第27話 守るよ
フェイは、床に座ったまま、膝を抱えた。
ヴィクトリアの話は、半分くらいしか分からなかった。王家の目。弱み。公爵家の言葉。山では、誰も使わない言葉ばかりだった。
でも、分かったこともある。
「おれは、ヴィクトリアさんのことは、よく知らないけど」
フェイは、顔を上げた。
「今、学校のみんながヴィクトリアさんにしてることは、間違ってると思う」
ヴィクトリアが、わずかに目を見開いた。
「それに、屋上で犯人の特徴を聞きに来たヴィクトリアさんが、犯人だとは思えないんだ。だって、帳面に書いてるとき、すごく真剣な顔してたもん。自分が犯人なら、あんな顔しないよ」
言いながら、自分でも、そうだ、と思った。
山で獣を追うとき、おじいちゃんはいつも言っていた。足跡より、獣の顔を見ろ。腹が減っている顔か、逃げている顔か、守っている顔か。顔は、足跡より嘘をつかない。
「だから、おれ、ヴィクトリアさんを守るよ」
部屋の中が、静まり返った。
「あなたは……」
ヴィクトリアは、何か信じられないものを見るように、フェイを見ていた。
「自分が何を言っているか、分かっているの? 今の私を庇えば、あなたが学校で何をされるか分からないわ。あなたは、ただでさえ……」
魔力無し、と言いかけたのだろう。ヴィクトリアは、そこで言葉を切った。
「だから、大丈夫よ。気持ちだけで十分」
「大丈夫じゃないよ」
フェイは、首を横に振った。
「水、冷たかったもん。あれを毎日かけられて、大丈夫なわけないよ」
ヴィクトリアの唇が、震えた。
何か言い返そうとして、言葉を探して、見つからなかったらしい。長いあいだ、黙ってフェイを見ていた。それから、肩から力が抜けたように、小さく息を吐いた。
「……ありがとう」
ヴィクトリアは、笑った。
屋上で見たのと、同じ笑顔だった。口もとだけで、静かに笑う顔。
けれど、あのときとは違った。あのときは、何かを肩から下ろしたように見えた。今は、もう下ろすものさえ残っていない人が、それでも笑ってみせているように見えた。
ひどく、疲れきった笑顔だった。
フェイが何か言おうとしたとき、横から、ぽんと肩を叩かれた。
ソフィアだった。その隣で、メイベルが燭台を机に置いて、両手を腰に当てている。
「フェイなら、そう言うと思った」
ソフィアは、少しだけ得意そうに笑った。
「わたくしたちも、ヴィクトリア様の味方です」
「ええ。私たちも、あなたの味方よ、ヴィクトリア」
ヴィクトリアは、3人の顔を順に見た。
それから、寝間着の袖で、目もとをそっと押さえた。




