第26話 王家の目の娘
「私の家はね、王家の目と呼ばれているの」
ヴィクトリアは、膝の上の手を見つめたまま話しはじめた。
「王家に近づく人を、誰よりも先に見て、知る家。だから、どの家も、ノクターン家には頭が上がらない。弱みを知られているかもしれないから」
「弱み?」
「知られたくないことって、誰にでもあるでしょう」
フェイは、少し考えた。山を下りる前、おばあちゃんは腰が痛いのを「痛かないよ」と言って隠していた。
「……うん。あるかも」
「だから、学校でも、私に引け目を感じる人は少なくなかったわ」
ヴィクトリアは、小さく息を吐いた。
「私は、誰にでも同じように接してきたつもりよ。威張ったことも、命令したことも無い。でも、相手にとっては、そうじゃなかったのかもしれない」
マルタたちの顔が浮かんだのだろうか。ヴィクトリアの指が、寝間着の膝をぎゅっとつかんだ。
「私が何か言えば、それは公爵家の言葉になる。頼んだつもりでも、命令に聞こえる。笑いかけたつもりでも、見張られているように感じる人がいる。……そういう人たちが、今、水を持ってくるの」
フェイは、昼間の女子生徒たちの顔を思い出した。膝をついて謝れと言っていた。あの顔は、怒っているというより、どこか嬉しそうだった。
「みんな、怖かったんだ」
「そうね。たぶん、ずっと」
ヴィクトリアは、窓の外の暗がりに目をやった。
「屋上であなたに会ったあと、あなたの話と、家の者が集めた話を合わせて、犯人を探していたの」
声が、少しだけ強くなった。
「熊に魔法をかけた男たちが、誰に雇われたのか。もう少しで、おおよそ絞りこめるところだった。王家の剣……ヴァルモント家の線が見えてきた、ちょうどそのときに」
ヴィクトリアは、机の上の号外を見た。
「あれが出たの」
部屋の中が、しんとした。
ソフィアが、両手で口を押さえていた。メイベルは燭台を持ったまま、固まっている。
「家の者は、もう誰も動けない。私も、ここから出れば、また水をかけられる。……調べようにも、もう、何もできないわ」
ヴィクトリアは、そこで初めて顔を上げた。
目の縁が、赤かった。けれど、涙はこぼれていなかった。
「ごめんなさい。答えになっていないわね。なんでこんなことが起きるのか、だったかしら」
ヴィクトリアは、笑おうとした。うまくいかなかった。
「私にも、分からないのよ」




