第22話 婚約破棄
2枚目の号外が出たのは、それから3日後だった。
今度の見出しは、1枚目よりも大きかった。
――王子アルベルト殿下、ヴィクトリア・ノクターン嬢との婚約を破棄。
――殿下の新たな許嫁に、ヴァルモント公爵家のリリアーナ嬢。
中庭が、どよめいた。
「まあ、当然だな」
「王女様を狙った家の娘を、王家に迎えられるわけないものね」
「ノクターン家も、終わったな」
「それにしても、次はヴァルモント家か。早いなあ」
フェイは、号外を持ったまま首をかしげた。
「こんやく、はき?」
「結婚の約束をなかったことにする、という意味です」
メイベルが、声を落として教えてくれた。
「ヴィクトリア様は、お小さい頃から、アルベルト殿下の許嫁でいらしたのです。いずれは、王家に嫁がれるはずの方でした」
「それが、なくなったの?」
「……はい」
フェイは、ソフィアのほうを見た。
ソフィアは号外を握りしめたまま、唇を噛んでいた。紙の端が、くしゃくしゃになっている。
「お兄様は……ヴィクトリアに、何も訊かなかったの」
小さな声だった。
「会いにも行かずに、決めてしまったの。何年も、許嫁だったのに」
ソフィアの目に、涙がにじんでいた。怒っているのか、悲しんでいるのか、フェイには分からなかった。たぶん、両方なのだと思った。
フェイは、もう一度号外に目を落とした。
リリアーナ・ヴァルモント。
ヴァルモント、という名前には、覚えがある。決闘の日、渡り廊下でメイベルが教えてくれた。王家の剣と呼ばれる家。レオンハルトという人の家。グスタフが、負けたら顔向けできないと言っていた人の家。
「このリリアーナって人、レオンハルトって人の……」
「妹君です。まだ14歳の方です」
メイベルが答えた。
フェイは、号外の2つの見出しを、上から順に見比べた。
ノクターン家が、悪いことをした。だから、婚約がなくなった。そこまでは、なんとなく分かる。
でも、どうしてその空いた場所に、もう別の人が座っているのだろう。まるで、最初から決まっていたみたいに。
フェイには、うまく言葉にできなかった。ただ、胸の奥がもやもやした。山で、獣の足跡がふいに途切れているのを見つけたときと、同じもやもやだった。
その翌朝。
ヴィクトリア・ノクターンが、学校に来た。




