第21話 号外
それから5日後の朝、学校じゅうに紙が舞った。
「号外! 号外だ!」
中庭で、上級生が刷りたての紙の束を配っている。刷ったばかりのインクが、まだ匂っていた。生徒たちが群がって奪い合い、読んだそばから声を上げる。
フェイも1枚、手渡された。
いちばん上に、大きな字でこう書いてあった。
――王女殿下襲撃の犯人、捕縛。
――犯人はノクターン公爵家の指示であったと自白。
「……え?」
隣で、ソフィアが紙を握りしめていた。顔から、血の気が引いている。メイベルが、その肩にそっと手を添えた。
教室に入ると、どこもその話で持ちきりだった。
「ノクターン家だってよ」
「王家の目が、王女様を狙ったってこと?」
「ヴィクトリア様、今日は休みだって」
「そりゃ来られないでしょ」
誰かが、くすりと笑った。
「前から思ってたのよね。公爵家だからって、いつもすました顔して」
「分かる。昔から調子に乗ってて、気に入らなかったのよ」
「ざまあないわね」
昨日まで、ヴィクトリアが廊下を歩けば、誰も何も言われないのに道を空けていた。その同じ生徒たちが、今は平気で笑っている。
フェイは、自分の席で号外を見つめていた。
屋上の風を、思い出す。
帳面に、犯人の顔を書きつけていたヴィクトリア。熊に手をかざしたのは傷のほうだと、確かめるように繰り返していた声。最後に、何かを肩から下ろしたように笑った顔。
犯人を探していた人が、犯人だったなんてことが、あるのだろうか。
フェイには、どうしてもそうは思えなかった。
号外を、もう一度読む。捕まった犯人。ノクターン家の指示。どこにも、ヴィクトリアの帳面に書いてあったことは出てこない。
「……別の誰かが、いるんじゃないかな」
つぶやいた声は、教室のざわめきに紛れて、誰にも届かなかった。
◇
2年生の教室の窓際で、レオンハルト・ヴァルモントは号外を静かに畳んだ。
「信じられない……ヴィクトリアが、ソフィアを……」
隣の席で、アルベルトが額を押さえている。号外を持つ手が、小さく震えていた。
「僕も信じたくないよ、アルベルト」
レオンハルトは、親友の肩に手を置いた。
「けれど、本人が自白したんだ。君は、妹君の無事だけを考えればいい。あとのことは、陛下と僕らに任せて」
「……ああ。すまない、レオンハルト」
アルベルトがうつむく。
その頭の上で、レオンハルトは窓の外へ目をやり、うっすらと笑みを浮かべた。




