第19話 ちょっといいかしら
決闘から3日が経った。
昼の学食は、焼いたパンと肉の脂の匂いでいっぱいだった。フェイの前には、皿が4枚積み上がっている。
「フェイ様、それで何皿目ですか?」
「5皿目! ここのごはん、おかわりしていいんだって」
メイベルが呆れたように笑い、ソフィアは自分のパンを半分ちぎって、黙ってフェイの皿に載せた。
周りの目は、決闘の前と少し変わっていた。
ひそひそ声は、まだある。けれど「魔力無し」の後に、「くしゃみの」が付くようになった。フェイが通ると、道を空ける生徒も出てきた。
「あいつの前で、くしゃみさせるなよ」
「壁にめり込むぞ」
聞こえているけれど、フェイは気にしなかった。肉がおいしかったからだ。
そのとき、学食のざわめきが、すっと引いた。
夜の色をした長い髪の女子生徒が、テーブルの間を真っすぐこちらへ歩いてくる。後ろには、あの日と同じ取り巻きの女子生徒たち。
ヴィクトリア・ノクターンは、フェイたちのテーブルの前で足を止めた。
ソフィアとメイベルを、ちらりと見る。それから、フェイに向かってにっこりと笑った。
「フェイさん、ごきげんよう。ちょっといいかしら?」
「ヴィクトリア!?」
ソフィアが、がたんと椅子を鳴らして立ち上がりかけた。フェイはその腕に、そっと手を置いた。
「決闘の立ち会いをしてくれた人だね。もちろんいいよ」
フェイは最後のひと切れを口に放りこんで、立ち上がった。
ヴィクトリアは取り巻きたちに「ここで待っていて」とだけ言い、フェイを連れて階段を上っていった。
屋上に出ると、風が強かった。
王都の屋根が、どこまでも続いている。その向こうに、小さく山の稜線が見えた。フェイは思わず手すりに身を乗り出した。
「あ、あっちが山だ」
「あなたの家があるところね。賢者バルタザール様の山」
フェイは振り返った。ヴィクトリアは、手すりから少し離れたところに立っていた。
「調べさせてもらったわ。ごめんなさいね。私の家は、そういうことをするのが仕事なの」
ヴィクトリアは、風に流れる髪を片手で押さえた。
「木の上から降ってきて、狩猟会の熊を一撃で倒したそうね」
「うん」
「木の上にいたなら、熊を放した人間のことも、全部見ていたはずよね」
紫の瞳が、まっすぐフェイを見た。
「だから、ひとつだけ訊きたいの。熊を一撃で倒せるあなたが、なぜ犯人を逃したの?」




