第16話 紅蓮爆砕
「決闘の作法は、ひとつだけ」
ヴィクトリアが、舞台の真ん中で片手を上げた。
「先に相手に膝をつかせた方の勝ち。それ以外は、何をしても構わないわ」
フェイとグスタフは、10歩ほど離れて向かい合った。
魔法の撃ち合い、というものを、フェイは見たことがなかった。
おじいちゃんが魔法を使うのは、竈に火を点けるときと、雨漏りを塞ぐときと、沢の水を汲み上げるときくらいだった。どれも、便利だなあと思うだけのものだった。
熊のときに騎士が飛ばした炎は、熊の毛を焦がしただけだった。
だから、まずは見てみようと思った。どんなものか分からないなら、1回くらい当たってみればいい。たぶん、大丈夫だろう。
向かいのグスタフは、腕を組んだまま、鼻で笑っていた。
「構えもしないのか。まあいい。1発で終わらせてやる」
「始め!」
ヴィクトリアの手が、振り下ろされた。
グスタフが、両手を前に突き出した。
「紅蓮の焔よ――」
その手のひらに、赤い光の輪が浮かび上がる。
フェイは、その間に客席を見回していた。
「うわー、すごい人……」
階段状の客席が、上の上まで生徒で埋まっている。山の鹿を全部集めても、こんなにはいない。
「ソフィアとメイベルは、どこかなー?」
「――我が魔力を糧とし、眼前の愚者を灰燼に帰せ」
グスタフの声が、どんどん大きくなる。手のひらの光の輪が、2重、3重に広がっていく。客席の前のほうの生徒たちが、顔色を変えて後ずさった。
フェイは、客席の最前列に、紺色の制服を2つ見つけた。ソフィアとメイベルだ。2人とも、両手を胸の前で握りしめて、何か叫んでいる。
「あ、いた! おーい!」
フェイが手を振った、そのとき。
「紅蓮爆砕!」
視界が、真っ赤に染まった。
轟音。熱。足もとの石が震える。闘技場ぜんたいが、ひとつの大きな炎の玉に呑みこまれた。
黒い煙が、もうもうと舞台を覆う。
客席から、悲鳴が上がった。
「お、おい……今の、直撃だったぞ」
「あいつ、死んだんじゃね」
「流石にやりすぎだろ、バルドリック……」
煙の中で、フェイはまばたきをした。
外から、グスタフの高笑いが聞こえてくる。
「クックック……魔力無し風情が、身の程も弁えずに入学などするからいけないのだ。バカめ」




