第15話 見届け人
「グスタフ様の家は、バルドリック子爵家と申しまして」
闘技場へ向かう渡り廊下で、メイベルが小声で教えてくれた。
「ヴァルモント公爵家の、いわば子分のような家なのです。ヴァルモント家は、王家の剣と呼ばれるお家で……そのご嫡男のレオンハルト様が、アルベルト殿下の親友でいらっしゃいます」
「アルベルト殿下って、ソフィアのお兄さん?」
「はい。2年生でいらっしゃいます」
ソフィアが、悔しそうに唇を噛んだ。
「ヴァルモント家は、王家でも蔑ろにはできないの。グスタフは、それを分かっていて、あんな態度を取るのよ」
フェイには、半分くらいしか分からなかった。それでも、グスタフがメイベルに怒鳴ったことだけは、はっきり分かっている。
闘技場は、校舎の裏手にあった。
丸く掘り下げた石の舞台を、階段状の客席がぐるりと囲んでいる。その客席が、もう人で埋まりかけていた。同じクラスの生徒だけではない。上級生も、知らない顔も大勢いた。
「魔力無しが、決闘だってよ」
「相手はバルドリックだろ。終わったな」
「何秒もつか賭けようぜ」
舞台の向こう側で、グスタフが腕を組んで待っていた。取り巻きらしい男子たちが、その後ろでにやにやしている。
そのとき、客席の上のほうが、さっと静かになった。
「一体、何の騒ぎ?」
階段を下りてきたのは、1人の女子生徒だった。
夜の色をした長い髪に、つり上がった紫の瞳。後ろに、女子生徒を3人従えている。その人が歩くと、前にいた生徒たちが、何も言われないのに左右へ道を空けた。
「ヴィクトリア・ノクターン様……」
メイベルが、小さくつぶやいた。
ヴィクトリアは舞台を見下ろして、フェイのところで目を止め、すっと細めた。次の瞬間、紫の瞳が見開かれる。
「何あの子。魔力が無いじゃない」
「その通りです、ヴィクトリア様!」
取り巻きの1人が、勢いこんで言った。
「やつが、噂の魔力無しのフェイです!」
「あぁ、彼が……ソフィアの……」
ヴィクトリアは、何かを確かめるようにつぶやいた。それから、唇の端を持ち上げた。
「面白いじゃない!」
ヴィクトリアは、ひらりと舞台に下り立った。
「この決闘、私が見届け人になるわ!」
「ヴィ、ヴィクトリア様!?」
グスタフの声が裏返った。
「な、なぜ……普段は、こういったことには干渉なさらないのに……」
「気が向いたの。不満?」
「い、いえ! い、いいでしょう! それでは、お願いいたします!」
グスタフは深々と頭を下げた。下げたまま、口の中でぶつぶつと何か言っている。
フェイは耳がいい。山で、遠くの鹿の足音を聞き分けてきた耳だ。
「えーい……これで負けたら、レオンハルト様に顔向けできない……」




