第14話 侍女風情
最初の授業は、魔法の実技だった。
「1人ずつ、的に向かって得意な魔法を撃ってみなさい」
中庭の端に、木の的が並んでいる。生徒たちが順に短い呪文を唱えて手を突き出すと、炎が飛び、水が弾け、つむじ風が的を揺らした。
フェイの番が来ると、先生は名簿を見て、少し困った顔をした。
「……君は、見学でいい」
くすくすと、誰かが笑った。
「見学ですってよ。魔力無しは」
列の中から、1人の男子が進み出た。金色の髪をきっちり撫でつけ、制服の胸には、家の紋の入った飾りを留めている。
「グスタフ・バルドリック様だ」と、誰かが小声で言った。
「なぜ貴様のような者が、この学校にいる」
グスタフは、フェイの目の前で足を止めた。
「魔力も無い、オーラも無い。平民上がりが、王女殿下に取り入って騎士爵をもらったそうだな。この学校の品位が下がる。今すぐ出ていけ。それが嫌なら、俺と決闘しろ」
「けっとう?」
「フェイ、だめです」
ソフィアが、フェイの袖を引いた。
「こんなの、受ける必要ないわ」
「そうです。フェイ様が相手をなさる必要はございません」
メイベルも、反対側からフェイの前に出た。
グスタフの顔が、さっと赤くなった。
「何様だ、この侍女風情が!」
怒鳴り声に、メイベルの肩がびくりと跳ねた。
「グスタフ」
ソフィアの声が、すっと冷えた。
「侍女に対する不敬は、私に対する不敬と同じですよ」
「これはこれは、王女殿下」
グスタフは、胸に手を当てて大げさに頭を下げた。
「滅相もございません。少々、声が大きくなっただけのこと」
口では謝っているのに、顔は少しも謝っていなかった。ソフィアは唇を噛んだまま、それ以上は何も言わなかった。
フェイは、メイベルを見た。
メイベルは、うつむいて、制服の裾をぎゅっと握っていた。指の先が白くなっている。
それを見たら、迷いが消えた。
「いいよ」
フェイは、メイベルの前に出た。
「決闘、受けるよ。何をすればいいの?」
「フェイ!」
ソフィアが叫んだのと、グスタフがにたりと笑ったのは、同時だった。
グスタフは右手の白い手袋を抜き取って、フェイに投げつけた。手袋はフェイの胸に当たって、ぱさりと足もとに落ちた。
「バカが、受けやがったな。これで決闘は確定だ。証人は、ここにいるクラス全員だ。逃がさないぞ、覚悟しろ」
グスタフは、くるりと背を向けた。
「今日の放課後、校舎の闘技場だ」




