第13話 絶対に味方
寮の部屋は、山の家の土間と同じくらいの広さだった。
寝台がひとつと、机がひとつ。窓からは、王都の灯りが見える。夜になっても、町はまだ明るかった。山なら、とっくに真っ暗になっている時刻だ。
フェイは寝台に腰かけて、首から下げた木の札を握っていた。
魔力量、0。
昼間の声が、まだ耳の奥に残っている。魔力無し。平民上がり。なんで魔法学校に。
山を下りる朝、おじいちゃんが言ったことを思い出した。
――お前を変な目で見る者も、おるじゃろう。
あのとき、おじいちゃんの声はいつもより少しだけ低かった。おじいちゃんは、最初から分かっていたのだ。分かっていて、ずっと黙っていた。
怒る気には、なれなかった。黙っていた理由も、なんとなく分かる気がした。分かる気がしたのが、かえって胸の奥に重たかった。
コン、コン。
窓が鳴った。
フェイが顔を上げると、窓の外の暗がりに、白い手が見えた。慌てて窓を開ける。
「ソフィア? メイベルも?」
2人は、窓の下の植え込みにしゃがみこんでいた。
「しーっ。男子寮に来ているのが見つかったら、怒られてしまいます」
ソフィアが、唇に指を当てる。メイベルは辺りをきょろきょろと見回していた。
「どうしたの、こんな夜に?」
「どうしたの、じゃありません」
ソフィアは立ち上がって、窓枠に両手をかけた。フェイの顔を、まっすぐに見上げる。
「昼間のことです。……気にしていませんか?」
フェイは、少しだけ迷った。それから、正直に答えた。
「ちょっとだけ、してる」
ソフィアとメイベルは、顔を見合わせた。
「フェイ。魔力量が0でも、あなたは熊から私たちを助けてくれました」
ソフィアの声は小さかったけれど、震えてはいなかった。
「それは何も変わりません。周りには、あなたを変な目で見てしまう人もいると思います。でも、私たちは」
「わたくしたちは、絶対に、フェイ様の味方です」
メイベルが、ソフィアの言葉を引き取った。言ってから、自分の声の大きさに驚いたように口を押さえる。
フェイは、2人を見下ろしたまま動けなかった。
山では、おじいちゃんとおばあちゃんしかいなかった。それ以外に、味方だと言ってくれた人は、1人もいなかった。
「……ありがとう」
声が、少しかすれた。
「おれ、学校に来てよかった」
ソフィアが、ふわりと笑った。メイベルも笑った。
遠くで、見回りの足音がした。2人は小さく悲鳴を上げて、植え込みの向こうへ駆けていった。
フェイは窓を閉めて、札を握り直した。
さっきより、少しだけ軽かった。




