第12話 光らない石
入学式は、学校でいちばん大きな広間で行われた。
天井が高すぎて、声を出すと遅れて返ってくる。新しい紺の制服に袖を通した1年生が、何列にも並んでいた。フェイの肩は、上着の中でまだ少し窮屈だった。
壇の上には、白い台が置いてあった。台の上に、人の頭ほどの透きとおった石が載っている。
「これより、魔力量の測定を行う」
長い髭の先生が、よく通る声で言った。
「名を呼ばれた者は前へ。石に手を当てなさい」
1人目の男子が石に触れると、石の中に、ぽうっと青い光が灯った。広間のあちこちから、感心したような息が漏れる。
2人目は、もう少し明るかった。3人目は、少し暗かった。光が強いほど、魔力量が多いらしい。
「ソフィア・アルセリオ」
ソフィアが壇に上がって、石に手を当てた。
広間が、真っ白になった。
フェイは思わず目を細めた。窓から朝日が差しこんだのかと思った。光が収まると、先生が満足そうにうなずき、広間じゅうから拍手が起こった。
「メイベル」
メイベルの光も、ソフィアほどではないけれど、ずいぶん明るかった。壇を下りながら、メイベルはこっそりフェイに小さく手を振った。
「フェイ」
名前を呼ばれた瞬間、広間がざわっと揺れた。
フェイは壇に上がって、みんなと同じように、石に手を当てた。ひんやりとして、つるつるしていた。
何も起きなかった。
しばらく待った。石は、透きとおったままだった。
「あれ?」
手を離して、もう一度当ててみる。やっぱり、何も起きない。
先生が、眉を寄せて石を覗きこんだ。それから、ゆっくりと顔を上げた。
「……魔力量、0」
広間が、しんとした。
それから、さっきよりもずっと大きなざわめきが、波のように押し寄せてきた。
「0だって」
「やっぱりな。オーラが全然無かったもの」
「魔力無しが、なんで魔法学校に」
「平民上がりの騎士爵って、あいつのことか」
フェイは、石の上に置いた自分の手を見下ろした。
ずっと、自分にも魔力があるのだと思っていた。誰にでもあるものだと。おじいちゃんが竈に火を点けるのを、何百回も見てきた。自分にはまだやり方が分からないだけで、いつか教わるのだと思っていた。
おじいちゃんは、一度も教えようとしなかった。
中庭で、目を細めてこちらを見ていた生徒たち。
ぜんぶ、これだったのだ。




