第133話 転入生
学院に来て、2週目の朝だった。
2年生の教室は、石の床に、長い机が5列並んでいる。フェイとジルの席は、いちばん後ろの列だった。開けた窓から、中庭で素振りをする1年生の、木剣が空を切る音が聞こえてくる。
「入れ」
戦史の教官が、扉のほうへ、あごをしゃくった。
入ってきたのは、同じ顔をした、2人の娘だった。
背の高さも、目の形も、口の結び方も、同じだった。ただ、髪だけが違った。1人は黒い髪で、首筋が見えるほど短い。もう1人は白い髪で、肩に触れる毛先が、内側へ丸まっていた。
「転入生だ。名乗れ」
「……リーゼ」
黒い髪の娘が、それだけ言って、小さく頭を下げた。
「ローゼでーす!」
白い髪の娘は、片手を挙げて、教室の中を、ぐるりと見まわした。その目が、いちばん後ろの列で、止まった。
「あ」
白い髪の娘は、にっこりと笑った。それから、教官が席を決めるより先に、すたすたと机のあいだを歩いてきて、フェイの隣に、すとんと座った。
「ここ、空いてるよね?」
「うん! 空いてる!」
「やった。あっちのリーゼはね、わたしのお姉ちゃん」
ローゼは、前のほうの席に座った黒い髪の娘を、指でさした。リーゼは、振り返らなかった。
「ねえ、あなたが魔法の国から来た伯爵さま? 剣を3本だめにしたって、本当?」
「本当! ちゃんと、ごめんなさいって言ったよ!」
「あはは! 変なの」
ローゼが笑うと、白い髪の毛先が、肩の上で揺れた。乾いた花のような、甘い匂いがした。
フェイの反対隣で、ジルが、背筋を、ぴんと伸ばしていた。前を向いたまま、小さな声で言う。
「……フェ、フェイ、さん。あの方、ど、どうして、迷わずに、ここへ」
「空いてたからじゃない?」
「教室の、前のほうにも、空いている席は、いくつも……」
ジルは、そこで言葉を切って、前の列のリーゼの背中を見た。
授業のあいだ、リーゼは、一度も振り返らなかった。帳面も開かずに、背筋を伸ばしたまま、ただ、前を向いていた。
ローゼは、教官の話を聞いているのかいないのか、フェイの帳面の落書きを、楽しそうにのぞきこんでいた。山の家と、ハンナと、熊の絵だった。
「これ、なに? 牛?」
「熊!」
「熊なんだ!」
ローゼが吹き出して、教官に、じろりとにらまれた。
フェイも、笑った。
ただ、首の後ろだけが、朝から、ずっと、むずむずしていた。
大聖堂の帰りに、広場の手前で、暗がりから誰かに見られていたときと、同じ感じだった。




