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132/216

第132話 1番と2番

 その部屋には、窓が無かった。


 帝都の地面の、ずっと下にある部屋だった。壁は、黒ずんだ石。机の上の蝋燭が1本だけ、紙の束と、それを読む男の手もとを照らしている。


 男は、黒い革の手袋をはめていた。


 手袋のまま、紙をめくる。灰色の髪を、きっちりと後ろへなでつけていた。痩せていて、座っていても、背が高いのが分かった。


 帝国の諜報機関の長官、ディートリヒ・ヴェルナーは、紙の1行を、指でなぞった。


 ――アルセリア王国伯爵、フェイ。16歳。平民の出。魔力量、0。


「魔力量、0」


 声は、低く、平らだった。


 机の前の、蝋燭の光が届くか届かないかの床に、2人の娘が、片膝をついていた。


 同じ顔をしていた。


 2人とも、髪を短く切りそろえている。1人は黒い髪で、首筋が見えるほど短い。もう1人は白い髪で、肩に触れる毛先が、内側へ丸まっている。2人とも、体にぴったりした黒い服を着て、腰の後ろに、短いナイフを2本ずつ差していた。


「1番」

「はい、長官」


 黒い髪の娘が、顔を上げずに答えた。


「今日、あの伯爵を見ていたな」

「はい。大聖堂から広場まで。……広場の手前で、あの伯爵が、こちらを振り返りました」


 長官の、紙をめくる指が、止まった。


「感知されたのか?」

「いいえ。連れの魔法騎士団の女が、目に魔力を込めましたが、その目にも、私たちは映っていません」

「では、なぜ振り返った?」

「……分かりません」


 隣で、白い髪の娘が、くすっと笑った。


「あの子、誰もいないはずの暗がりを、ずうっと見てましたよ。まるで、匂いでも嗅いでるみたいに。ねえ長官、あの子、変です。オーラが、ほんとに、ひとつも無いの。わたしたちと、おんなじ」

「2番」


 白い髪の娘は、ぴたりと口を閉じた。


「お前たちは、自分のオーラを止めているから、映らない。あの伯爵は、はじめから、オーラを持っていない」


 長官は、紙を机に置いた。


「お前たちは、手の届くところにいる相手のオーラを止めて、魔法を使えなくできる。……だが、オーラの無い相手に、それが効くのか?」


 2人は、答えなかった。


 長官は、答えを待たなかった。手袋の指で、紙の上の名前を、1度だけ、軽く叩いた。


「調べろ」

「はい」

「あの伯爵が、何者なのか。どれほど強いのか。弱いところは、どこか。調べて、報告しろ」


 黒い髪の娘が、頭を垂れたまま、言った。


「手段は?」

「問わない」


 白い髪の娘が、ゆっくりと顔を上げた。蝋燭の光の中で、その目が、うれしそうに細くなった。


「はい、長官。長官のおっしゃるとおりに」


 2人は、同時に立ち上がった。足音は、しなかった。扉が開いて、閉じた。


 部屋には、蝋燭の燃える、かすかな音だけが残った。


 長官は、次の紙をめくった。


 そこには、王国から来た使節団の、書記官の名が書いてあった。

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