第129話 食堂の皿
学院の食堂は、肉の焼ける匂いでいっぱいだった。
長い木の机が、端から端まで並んでいる。皿に盛られているのは、厚く切って焼いた肉と、黒くて固いパンと、豆を煮たもの。どれも、王国の学園の倍くらいの量があった。
「……クララの言ったとおりだ」
肉をひと口かじって、フェイはつぶやいた。塩が、濃かった。
フェイは、自分の皿を空にして、おかわりの列に並んだ。
皿を2枚、両手に持って戻ろうとしたとき、前に、3人の学生が立ちふさがった。
真ん中にいるのは、朝の中庭でフェイをにらんだ学生だった。両脇の2人も、腰に剣を下げている。
「おい、伯爵。魔法の国の者に、帝国の肉は、もったいないんじゃないか」
「でも、おいしいよ」
「そういうことを言ってるんじゃない」
学生は、フェイの右の皿を、手で払った。
皿は、動かなかった。
学生は、もう一度、もっと強く払った。皿の上の豆の汁が、少しだけ揺れた。それだけだった。
「……なんだ、こいつ」
2人目の学生が、横から、フェイの肩を突き飛ばそうとした。両手で、体ごとぶつかってくる。
フェイは、皿を持ったまま、立っていた。
ぶつかった学生のほうが、尻もちをついた。
まわりの机から、笑い声が起きた。今度の笑い声は、フェイではなく、尻もちをついた学生のほうを向いていた。
3人の顔が、赤くなった。真ん中の学生の手が、腰の剣の柄にかかった。
「やめなさい」
声は、大きくなかった。
それなのに、食堂じゅうの音が、止まった。
入口に、赤い外套の人が、立っていた。皇女エレオノーラだった。
「食堂で、剣に手をかけるの? 皿を持った相手に、3人がかりで」
「で、殿下……これは、その、魔法の国の者が……」
「みっともない」
皇女は、ひと言で、言い訳を断ち切った。
3人は、真っ青になって、頭を下げ、食堂から出ていった。
皇女は、フェイの前まで歩いてきた。フェイは、今度は、言われる前に、片膝をつこうとした。両手の皿のことを思い出して、中途半端な格好で止まった。
「……そのままでいいわ」
「すみません。ありがとうございます、殿下」
「勘違いしないで。あなたを庇ったわけじゃない」
皇女は、フェイの両手の皿を見た。山盛りの肉と、豆。豆の汁は、1滴もこぼれていなかった。
「帝国の剣は、ああいうふうに使うものじゃない。……それだけ」
皇女は、外套をひるがえしかけて、止まった。
「伯爵。夏に、学院の剣武大会がある」
「けんぶ、たいかい」
「全学年から、腕に覚えのある者が出る。素手でも出られるわ」
皇女は、フェイの目を、まっすぐに見た。
「出なさい。私が、正々堂々と叩き伏せてあげる」
それだけ言って、皇女は、食堂を出ていった。
フェイは、両手に皿を持ったまま、立っていた。
向かいの席で、ジルが、口に入れたままの肉を、まだ飲みこめずにいた。
「ジル! 大会だって! 楽しそう!」
ジルは、肉を飲みこんで、こくこくと、何度もうなずいた。
その目が、きらきらしていた。




