第126話 石の剣士の門
帝立剣武学院の門には、石の剣士が2人、向かい合って立っていた。
2人の石の剣が、門の上で、斜めに交わっている。その下をくぐると、広い中庭だった。
中庭は、人で埋まっていた。
何百人もの学生が、列をつくって、木の剣を振っていた。上から下へ。下から上へ。号令に合わせて、何百本もの剣が、同じ高さで止まる。止まるたびに、ざっ、と砂の鳴る音がした。
「……すごい」
フェイは、口を開けて見ていた。
隣で、ジルも、同じ顔をしていた。ただ、ジルの目は、剣の先ではなく、学生たちの足もとを見ていた。
「足がそろっています。あの人数で、半歩もずれない」
「それって、すごいの?」
「……王国の騎士団でも、なかなか」
号令が、止んだ。
中庭の正面に、石の壇があった。その上に、大きな男が立っていた。
白い髭を短く刈りこみ、右の頬から首にかけて、古い傷が走っている。腕を組んで立っているだけなのに、中庭じゅうの学生が、背筋を伸ばした。
「今日から、留学生が2人入る。前へ出ろ」
フェイとジルは、壇の前へ出た。
「アルセリア王国、アイゼンガルト辺境伯家のブリジット」
中庭が、少しざわついた。
「アイゼンガルト……」
「国境のあの家か」
「女だぞ」
ジルは、剣の柄に手を添えて、まっすぐに立っていた。ざわめきが、ゆっくりと引いていった。
「同じく、アルセリア王国の伯爵、フェイ」
今度のざわめきは、引かなかった。
「伯爵だと?」
「魔法の国の貴族が、剣を学びに?」
「剣も下げてないぞ」
どこかで、笑い声がした。それが、あちこちに広がった。
壇の上の男が、フェイを見下ろした。
「伯爵。お前の剣は、どこだ?」
「持ってないです」
中庭が、どっと沸いた。
フェイは、首をかしげた。山で騎士爵をもらった日にも、同じことを言った気がする。
「剣を持たずに、剣武学院へ来たのか?」
「はい。剣を学びに来たので」
笑い声が、一段、大きくなった。
ジルが、横で、剣の柄を握りしめていた。指の関節が、白くなっていた。
「ジル。大丈夫」
フェイが小声で言うと、ジルは、ぎゅっと唇を結んで、手を離した。
壇の上の男は、笑わなかった。腕を組んだまま、フェイの肩から、腕、腰、脚へと、目を下ろしていった。関所の兵と、同じ目の動きだった。
「……よかろう。学院長のゲルハルトだ。この学院では、肩書きは、何の役にも立たん」
男は、壇の上から、中庭じゅうに響く声で言った。
「伯爵だろうが、皇女殿下だろうが、同じだ。腕を見せろ。それだけだ」




