↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
零のフェイ ~魔力0の山育ち、拳ひとつで成り上がる~  作者: 凪 瞬作
第一部 最終章 魔導国戦争編
PR
120/216

第120話 山の家

 山のふもとに、馬車が3台、並んで止まった。


 秋の終わりの山は、落ち葉の匂いがした。沢の水が、夏よりも細く、冷たい音を立てている。


「ここから、歩くの?」


 ソフィアが、坂道を見上げた。道の脇の草はもう枯れて、白っぽく倒れていた。


「うん。すぐだよ」

「フェイの『すぐ』は、信用しないことにしてるの」


 リアが、日傘をたたんだ。


 結局、半分も行かないうちに、シエルの足が止まった。クララ先輩も、肩で息をしている。フェイは、シエルを背負い、クララ先輩を片腕に抱えた。


「お、下ろしなさいよ! 自分で歩けるわ!」

「さっきから、同じ石を3回踏んでました」

「数えないで!」


 後ろで、リリィが、ノエル先生の袖につかまって、くすくす笑っていた。


 杉の林を抜けると、家が見えた。


 家の前の平たい岩に、ハンナが腰かけて、豆のさやをむいていた。顔を上げて、坂を上ってくる一行を、端から端まで眺める。


「……あれまあ」


 豆のさやが、1つ、膝から転がり落ちた。


「ただいま! おばあちゃん、あのね、おれ、伯爵っていうのになって、それで、みんな、お嫁さんに……」

「ひとりずつ、お言い」


 ハンナは、エプロンで手を拭いて、立ち上がった。


「まずは、上がっておくれ。椅子が、足りないけどね」


 椅子は、4つしかなかった。


 フェイが、裏の薪置き場から丸太を何本も運んできて、斧で平らに割った。会長が「これは、なかなか、趣のある椅子だね」と言いながら、いちばん先に座った。


 台所では、ハンナが、芋の皮むきを配っていた。


 メイベルの手もとで、皮が、細く長く、1本につながって垂れていく。その隣で、ソフィアの芋は、どんどん小さくなっていった。クララ先輩は、包丁の持ち方から、メイベルに教わっていた。


「……私が芋をむいてるところ、ギュンターに見せたいわ」

「クララ様、刃が、こちらを向いております」

「分かってるわよ!」


 ジル先輩は、外で、フェイと並んで薪を割っていた。剣を振るのと同じ構えで斧を振るので、薪が、真っ二つではなく、4つに割れた。


 夕暮れになって、奥の部屋から、おじいちゃんが出てきた。


 ずっと、部屋にこもって、出てこなかった。ハンナに言わせると、「どの服を着るか、決められなかったんだよ」ということだった。


 おじいちゃんは、丸太の椅子にずらりと並んだ娘たちを、長い眉の下から、ひとりずつ見た。


 王女。侍女。王家の目。聖女と、その剣。生徒会長。侯爵家の娘。担任の先生。それから、フェイの後ろに隠れるように立っている、小さな妹。


 ノエル先生が、立ち上がって、深く頭を下げた。


「……はじめてお目にかかります、バルタザール様。学園で、フェイ君の担任をしております」

「ほう」


 おじいちゃんの眉が、片方だけ上がった。


「担任が、嫁に来るのか?」

「……は、はい」


 ノエル先生の耳が、真っ赤になった。


 その夜の食卓には、芋の煮物と、鹿肉を焼いたのと、豆のスープが並んだ。


 食卓に、全員の皿は乗らなかった。膝の上で食べる者もいた。ソフィアのむいた小さな芋も、メイベルのむいた大きな芋も、同じ鍋で煮えていた。


 おじいちゃんは、黙って豆のスープをすすった。


 髭の先に、豆が1粒、くっついていた。ハンナが、それを指でつまんで取った。


 それを見ていた娘たちが、いっせいに、フェイの顔を見た。


「……な、なに?」


 誰も、答えなかった。ソフィアが、くすっと笑って、自分のスープに目を落とした。


 次の朝、夜明け前の山は、吐く息が白かった。


 フェイは、家の前の平たい岩に、両手をついた。


 振り返ると、戸口に、毛布にくるまった顔が、9つ並んでいた。


「……みんな、寝てていいよ?」

「いいの。見たいの」


 ソフィアが言った。


 フェイは、前を向いた。腕を曲げて、伸ばす。


「1、2、3……」


 後ろから、いくつもの声が、一緒に数えはじめた。


 山の向こう、ずっと遠くの尾根が、少しずつ、白くなっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。