第114話 叙任
10日後、フェイは、また謁見の間にいた。
今度は、借り物の上着ではなかった。王妃が城の仕立て屋を呼んで、一晩で作らせた服だった。採寸のとき、王妃が自分で巻き尺を持とうとして、ソフィアに取り上げられていた。
袖の長さは、ちょうどよかった。そのかわり、首もとが少し苦しい。
段の下には、貴族たちが並んでいた。この前の、ヴァルモント家を裁いた日よりも、人が多い。その中に、見知った顔がいくつもあった。
ノクターン公爵と、その隣のリア。会長と、ヴァイスベルク侯爵。クララ先輩と、グラウベルク侯爵。前線から戻ってきた辺境伯と、ブリジット先輩。柱の陰には、ソフィアとメイベル、シエル、ノエル先生。
フェイは、玉座の前で、片膝をついた。今度は、誰にも身振りで教わらなくても、できた。
「アイゼンガルト領にて、魔導国の2つの大魔法を打ち砕き、総大将を捕らえ、内通の首謀者を連れ帰った者がいる」
国王の声が、謁見の間に響いた。
「この者の功は、国を救ったものと認める。准男爵の者をさらに上げるには、上位の家の推挙が要る。……推挙する家は、あるか?」
前のときは、誰もが、隣の者の顔をうかがった。
今度は、違った。
「ノクターン公爵家が、推挙いたします」
「ヴァイスベルク侯爵家も」
「アイゼンガルト辺境伯家もだ! がっはっは」
辺境伯の笑い声に、何人かの貴族が、くすりと笑った。
「グラウベルク侯爵家も、推挙いたす」
灰色の髭の侯爵が、厳しい顔のまま、短く言った。クララ先輩が、隣で、目を丸くしていた。
国王が、ゆっくりと立ち上がった。
「アルセリア王国国王、オスヴァルト・アルセリオの名において。フェイ、そなたに伯爵の位を授ける。あわせて、旧ヴァルモント公爵領を、そなたの領地とする」
謁見の間が、拍手で揺れた。
フェイは、頭を下げたまま、首をかしげていた。
伯爵。
どこかで、聞いた。月明かりの部屋で、胸の上に乗ったリアが、指を1本立てて言った言葉。
――つまり、あなたは伯爵以上にならなきゃいけないの。
フェイは、そっと顔を上げた。
貴族たちの列の中で、リアが、こちらを見ていた。目が合うと、リアは、胸の前で、小指を1本だけ立ててみせた。
山で、おばあちゃんと約束をするときの形だった。
フェイの顔が、かあっと熱くなった。
「フェイ?」
玉座の上から、国王が、いぶかしげに見下ろしていた。
「あ、はい! ありがとうございます、陛下! がんばります!」
慌てて頭を下げすぎて、額が、床にごつんと当たった。
柱の陰で、ソフィアが小さく悲鳴を上げた。王妃が、扇で顔を隠して、肩を震わせていた。
式が終わって、謁見の間を出ると、廊下で国王付きの侍従が待っていた。
「伯爵様。陛下が、お部屋でお待ちです。……リリアーナ様のことで、と」




