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零のフェイ ~魔力0の山育ち、拳ひとつで成り上がる~  作者: 凪 瞬作
第一部 最終章 魔導国戦争編
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105/216

第105話 平泳ぎ

 フェイは、はるか上から、燃える空と、ばらばらに散っていく地上を見下ろしていた。


 体が、落ちはじめていた。


 焦げた煙の層を、背中から突き抜けた。熱い。それから、急に、冷たい風になった。耳もとで、ひゅうひゅうと風が鳴っている。


 下に、魔導国の軍が広がっていた。


 黒い鎧が、川の向こうの野原を、地平まで埋めている。山の上から見下ろした、秋の森みたいだった。数えようとして、すぐにやめた。どこまで行っても、黒い鎧だった。


 そのあちこちから、黒い煙が上がっている。火の雨が落ちたところだけ、黒い鎧が、輪になって逃げていた。


「えっと……白い髭、金の角、黒い天幕」


 地面が、ゆっくりと近づいてくる。川の向こうの丘。その上に、黒い天幕がいくつも並んでいて、いちばん大きいのが、真ん中にあった。


 ただ、このまま落ちると、丘の手前の川に落ちる。


「もうちょっと、あっち……!」


 フェイは、両手で空気をかいた。


 山の川で、おばあちゃんに教わった泳ぎ方だった。両手を前にそろえて、大きく左右に開く。足で、蛙みたいに空を蹴る。


 ほんの少しだけ、体が前へ進んだ。


「おお、進む!」


 もう1回。もう1回。手のひらに、空気が、水よりずっと薄く引っかかる。山の川の淵を、向こう岸まで泳ぎきったときのことを思い出した。おばあちゃんは、岸の岩に座って、手を叩いてくれた。


 空を平泳ぎする少年の下で、魔導国の兵たちが、口を開けて上を見ていた。


 丘が、近づいてくる。けれど、天幕には、少し届かなかった。


 フェイは、丘のふもとの、兵たちがいちばん固まっているところへ、まっすぐに落ちた。


 どごぉん、と、地面が鳴った。


 土が、噴水のように吹き上がった。周りの兵たちが、まとめて尻もちをつく。土煙が、ゆっくりと晴れていく。


 大きな穴の真ん中に、フェイが座っていた。


「いてててて……」


 お尻をさする。地面に、フェイの形の穴が、深く開いていた。


「い、隕石か!?」

「まだ降ってくるのか!?」


 兵たちが、穴の縁から、恐る恐る中をのぞきこんだ。


 穴の底で、少年が立ち上がって、服の土をぱたぱたと払った。


「あ、すみません。白い髭で、金の角の兜の人って、どこですか?」


 しんとした。


 それから、誰かが、喉の奥から叫んだ。


「て……敵襲ーっ!」


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