第104話 爆ぜる
音が、消えた。
次の瞬間、空が割れた。
巨大な隕石が、拳の当たったところから、内側へ向かってひびを走らせた。ひびが、隕石の全部に広がる。
そして、爆ぜた。
目の前が、真っ白になった。遅れて、音が来た。耳ではなく、体の芯を、まるごと殴られたような音だった。
白い光の輪が、空いっぱいに広がっていく。輪に押されて、雲が、ちぎれて吹き飛んだ。
地上には、光のほうが先に届いた。
川岸から逃げていた王国兵たちが、足を止めて、空を見上げた。空のまんなかに、もう1つ、太陽が生まれたようだった。誰も、声を出さなかった。鳥の声も、風の音も、何も聞こえなかった。
ひと呼吸ぶん、遅れて。
空から、轟音と爆風が、まとめて叩きつけてきた。
「うわあああっ!」
悲鳴が、いっせいに上がった。兵たちが、枯れ葉みたいに地面を転がっていく。兜が飛び、槍が飛び、天幕の布が、空へ舞い上がった。川の水が、岸から岸まで、一度に持ち上がって、ざあっと崩れ落ちた。両岸の木々が、同じ向きに、いっせいに倒れていく。
爆風が過ぎると、空じゅうに、燃えるかけらが散らばっていた。
何千ものかけらが、炎の尾を引いて、落ちていく。大きなものは家ほどもあって、ほとんどが、川の向こうへ向かっていた。
魔導国の陣じゅうに、火の雨が降った。並んでいた魔法使いたちが、悲鳴を上げて散っていく。黒い鎧の兵たちが、盾を頭の上に掲げて、右へ左へ逃げまどう。かけらが落ちるたびに、地面が噴き上がり、天幕がまとめて吹き飛んだ。陣の旗が、次々に倒れた。
こちら側にも、小さなかけらが、ばらばらと降ってきた。
爆風に倒された王国兵の列が、起き上がる間もなく、ばらばらにほどけていく。かけらが落ちたところで、馬が棒立ちになって、乗り手を振り落とした。荷車がひっくり返る。転んだ者の上を、後ろの者が踏み越えていく。誰も、前を見ていなかった。ただ、上を見て、逃げていた。
まだ吹き荒れる爆風の中で、何人かが、足を止めていた。
西の道へ向かう列の後ろで、会長が、外套を顔の前にかざしたまま、空を見上げていた。白いリボンが、爆風にちぎれそうになっている。
「……フェイ君」
東の橋へ走る兵たちの中で、クララ先輩が、巻いた髪を押さえて振り返った。
「……フェイ」
南の森へ向かう荷車の陰で、シエルが、両手を胸の前で組んでいた。その肩を、ジル先輩が、自分の体で爆風からかばっている。2人とも、同じ空を見ていた。
「フェイさん……」
「フェイさん……っ」
辺境伯の陣の端で、ノエル先生が、眼鏡を押さえていた。爆ぜた光で、硝子の片方に、ひびが入っていた。
「……フェイ」
誰の声も、爆風にかき消されて、届かなかった。




