爆照(バクテラス)
その怪獣は、ギョロリとした大きな目を真開いて彼女に突進してきた。
「グエーー!」
唾液を振り撒きながら彼女に迫る——。
気づけば僕の体は彼女を庇って飛び出していた。
一度惚れた女だ。そうなってしまうのは当たり前だったのかも知れない。
—ここで僕が重傷を負ったら、もしかしたら最期にキスくらいしてもらえるかも—
小賢しい思案が巡った。
その霧を晴らす様に、怪獣の牙が手首に突き刺さった。
「ンニィィィィィィ」
血は出なかった。
しかし皮膚に黄色いエキスが染みていくのを感じた。
怪獣に目をやると、その瞬間には体が薄くなり、発光していた。
まるで太陽の様に。
「ふう、助かったンゴォ」
僕の心配をする彼女と僕を見下ろし、浮遊を始めた怪獣が流暢な日本語で話し出した。
僕らは呆気に取られて口を聞くことができなかった。少なくとも僕は痛みでそれどころでは無かった。
「ワイは太陽神。いや、太陽神の素質があったしがないワニである。過ぎた力の継承、ありがたく思うンゴ。サンガツ」
満足そうに緑色に戻り始めた両手を眺めた。
反対に僕の指先は黄色く染まりはじめていた。
「うわぁ!なんだコレ、どうしてくれるんだお前!」
結構本気で怒ったつもりだった。
しかし、ワニには本気度が通じなかった様だった。
ますます傲慢に続けた。
「ワイはなぁ、ある太陽神に力を与えられたンゴねぇ、まぁワイには過ぎた力やってけど。だからおまいに継承の継承をさせにきたんや。まぁおまいが軽く軽傷したけどな」
「ハハハハハ面白いこと言うワニだ。殺すぞ」
つい感情を露わにキレてしまった。情けない。美緒がいるのに。だからモテないんだ。
僕の両手はアジア人でもおかしい程に黄色く染まってしまった。
この落とし前をつけなくては、気づけば拳を振り上げていた。
その拳を思いっきり突き出した瞬間——。
拳の先から眩い光弾が飛び出した。
その光弾は光状になったワニをすり抜け、さっき転びかけた手すりを打ち砕いた。
思いがけず僕は右手を確認した。
右手は一際強く輝いた後、直ぐに元の肌色に戻った。
その光景にはあのワニでさえ驚いて見ていた。
「やはりおまいには素質があったンゴ。最期におまいの様な後継者候補を見つけられてよかったンゴネェ」
わけが分からなかった。そんな困惑する僕らを残してワニは昇天して行った。
キーンコーンカーンコーン
まずい、お昼休みが終わってしまった。次の授業は遠く離れた実験室だ。本当にまずい。
弁当の残骸を放置して急いで僕らは屋上の扉を開けた、いや、正しくは開けようとした。
老朽化した戸は想像より厄介な物である。
焦る僕らをものとせず、一向に開く気配がない。
助走をつけて扉に蹴りを入れた。
それでも開かなかった。
蹴り続けるしかない、そう再び助走をつけようと駆けようとした、しかしその足は空中で空転した。
美緒が口を押さえて目を丸くし、僕を指さしてかたまっている。
「え、どうしたの?(かわよ)」
自分で足を見下ろすと、とても珍妙不可思議にも僕は空に立っていた。これがソーラー(空)パワー?




