スクープの2人
フィクションです。
爽やかな陽気と日差しが脳を刺激する。まだほんのり感じる心の痛みを誤魔化しながら目を覚ます。
周りには幾つかの本が棚から落ちてひっくり返っている。
そうだ。
昨日のショックでそのまま学校に泊まってしまったのだ。
スマホを見たら午前8時20分、もうたった十分で朝学活が始まる時間だ。
スマホに溜まる親からの連絡に一旦目を瞑って床に手を付き起き上がる。
もにゅん——。
サーーッ
血の気が引いた。
僕の真後ろには憧れの美緒さんが寝ていた。
てっきりあの後ちゃんと帰ったと思っていた。それに目を閉じた時、僕は彼女の近くにはいなかったはずだったから。
乱れたワイシャツ、僕が触れたことではだけた胸元。
頭が麻痺した、しかし僕はどうにか理性を保って彼女の肩をゆすった。
「おーい、起きて、いや、起きてくださいか?」
どうでも良い事を呟きながら揺り続けると、ようやく美緒さんは目覚めた。
「ふぁーあ、今日も学校かぁ」
まだ寝ぼけてる。可愛い。
しかしそんなこと言っている余裕はない。
「学校ですよ〜」
大きな声を出すと彼女は目を見開いたかと思うと、首を振って辺りをキョロキョロ見渡した。
「え、ど、どういうこと?、何で、何で隼が居るの?」
どう話したら良いのか分からず、慌てた表情を貫いていると、彼女は自分の状況を理解した様だった。
誤解を晴らすべく、僕は昨日見た事を正直に話した。拒絶されないかだけが心配だった。
恒星が逃げた事に少しショックを受けていた美緒さんだが、「教えてくれてありがと」、そう言って、焦りながらもすぐに身だしなみを整えた。
一夜を図書室で過ごしたとは思えない麗しさについ僕は釘付けになった。
僕の目線に気づくと同時に美緒さんは焦った表情になった。
僕らの関係を勘違いされる恐れについてだった。
それを言われ、僕はつい笑ってしまった。
僕と美緒さんに限ってそんな関係ありえない、そう伝えた。
美緒さんは少しばかり不安げだったが、もう時間もないので教室へ急いだ。
◇
教室、それはいつもの疲れた背中の同級生たちの影は無かった。
もはや、普段より数十倍も活気があった。
クラス中の人々は黒板に集まり、我よ我よと黒板の掲示物を見ていた。
「おい、どうしたんだ?何見てんだよ〜」
肩に手を置いて一言聞いてみた。
僕を振り返り、そいつはフリーズした。
そして周りもそれに気づいて一瞬の沈黙が訪れた。
その硬直した肩の向こうに見えたその写真。
それによって僕は全てを理解した。
ピンクのチョークで『密会』。そう書かれた黒板の真下にマグネットで一枚の写真が貼ってあった。
そこに写っていたのは紛れもなく僕、そして美緒だった——。
しかしその写真の中には僕の僕らの記憶に無い姿が写されていた。
図書室で本棚に寄りかかって寝ている2人、美緒は僕の肩に頭を乗せ、その頭に僕は顔を寄せていた。
美緒の服がはだけたままだったのもいけなかった。
これだけを見たらみんなパニックになるはずだ。
実際には嘘でしか無い状況だったのだ。
陶酔して、付き合っている美緒と、さほど友達も多く無い見栄えしない隼。そんな2人が一夜を過ごすはずが無いのだから。
しかし世論は厳しいものだった。
静寂はすぐに砕け、次々と混乱の声が溢れ出した。
「おい、見ろよ……!」
「マジかよ、あの真面目な隼と美緒が……?」
「ってか、美緒って山城恒星と付き合ってなかったっけ!? え、二股? それともね◯り!?」
勝手な憶測でどんどん想像はエスカレートしていった。
僕らは処理しきれないほどの質問責めを受け、コッソリと教室を抜け出した。
反射的に隣の教室を覗く。
恒星が言ってくれれば直ぐに疑いは晴れる。
そう一筋の希望を持って覗いた。
しかしそう現実は甘く無かった。
恒星は未だに来ていなかった。いつも早い恒星だからこの時間まで来ていないのは間違いなく休みだろう。
きっと昨日の勘違いを恐れて学校に行けなかったのだ。
本当に参った事になった。
教室に味方なき2人が戻ると、クラスでは勝手に僕らをすることまでしたカップルとして扱う様になってしまった。
その感情にはきっと妬みも込められていた。
「おい隼! どういうことだよこれ!」
「美緒、昨日の夜、隼と何があったの!?」
「山城には話したのかよ!?」
終わらない誹謗中傷の中、美緒は机に泣きそうな顔を埋め、隼は虚無へと化していた。
クラス全員から責められ、隼はまるで犯罪を犯した者の心地だった。




