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62話 召喚術 秋司とカクレテン

「はあはあ・・・。あのガキどもー。灯詠だからって調子に乗りやがって・・・」


草原に近い森中で、へムンは右膝を立てて座り込みながら右拳を強く握り締め、地面に打ち付ける。


「あんたが助けてくれたんだな・・・。礼を言うぜ」

「気にすることはなぁい。お主らのボスの命令だからなぁ。お主には類まれなぁ才能があるから助けろとなぁ。お主はまだまだ、強くなぁれる」

「・・・。ああ・・・。俺には才能がある・・・。それなのに・・・。くそーー」


へムンの近くには、全身を覆うほどの大きな紺色のマントを羽織っている業血司使いの姿がある。

フードも被っていて、全身のほとんどがマントに隠れている。

その業血司使いは、へムンの悔しそうな表情を見つめ、少しするとそのままどこかへ去って行った。


「俺はもっと強くなれる。俺は特別だ・・・。くっく・・・、くっくっく・・・」


へムンは俯きながら、小声を漏らした。




さっきまでへムンと戦闘を行なっていた場所には秋司、柊真、カクレテンの姿がある。


「おーい、秋司ー。いい加減、下ろしてやれよー」


柊真はカクレテンを両手で抱き上げている秋司に、目を細くして軽く呼びかける。


「あっ、いたー。おーい」


そんな二人と一匹のところに、ボロボロの諒介とカズセがやって来た。

二人は李朽との戦闘が終わると、少し休み、衝撃音が鳴っていたこの場所へやって来たのだ。

ちなみに、六時を過ぎているが、四人とも炎球を上空に放つことをすっかり忘れていた。

というより、放つ余裕がなかったのだが。


「おー。なんだっ、随分とボロボロじゃねーか。しょうがねーなー。俺が治してやんよ・・・。あっ・・・」


柊真は諒介とカズセの姿を見て、回復術の血転図式を描き、回復術を発動しようとするが、業血司量とスタミナがあまり残っていないため、発動できず、その場にゆっくり倒れる。


「と、柊真くん・・・」


ようやく地面にカクレテンを下ろした秋司とゆっくり歩きながら柊真に近づいている諒介が同時に声を発した。


「柊真だってボロボロじゃんっ」

「おい、カズセっ。なんで嬉しそうなんだよっ」


カズセは少し笑みを浮かべながら倒れた柊真を見つめる。

柊真はそんなカズセに倒れたままツッコミを入れる。

その後、諒介の手を貸りて柊真は起き上がり、カズセと言い合いを続けている。

秋司は三人の様子を少し離れた位置で微笑みを浮かべて見ていた。


「んっ・・・。なに?」


そんな秋司の右足のふくらはぎを軽く叩くカクレテン。

秋司は優しい笑顔を浮かべながら、ゆっくりと振り返り、膝を曲げて腰を下ろし、尻を地面につけないようにしゃがんだ。


「・・・」

「んっ? えぇーっ? これ、くれるの?」


カクレテンは自分の毛を取り、両手の上に乗せて秋司の前に腕を伸ばす。

この行為は、自分を召喚術で召喚してもいいという意味で、契約ではないが、契約みたいなものだ。

その光景が視界に入った諒介は柊真とカズセの言い争いを静止し、三人は秋司の後ろに集まる。


「うぅ・・・。ありがとうーー」


秋司は涙目になりながらカクレテンに飛びつこうとする。


「はーい、ダメだよー秋司ー」


柊真は秋司の後ろから襟を掴んで動きを止めた。

秋司はカクレテンの手の下に自分の両手を置いて毛を受け取り、嬉しそうに毛を眺めて、マイスペースにしまった。

そして、再びカクレテンに視線を向けると、カクレテンは両手を秋司の前に出したままだった。


「んっ?」

「秋司くん。きっと秋司くんの毛が欲しいんだよ」

「えっ?」


きょとんとした表情の秋司に、諒介が声をかけた。


「カクレテンも秋司くんを召喚術で召喚する許可が欲しいんじゃないかな?」

「召喚術で召喚・・・。えぇーーっ? 人間も召喚できるのーー?」


諒介の言葉を聞いて、つい大声を出してしまう秋司。


「う、うん。人間も召喚できるよ。ああ、でも人間は人間を召喚できないよ。発動者と同じ種は召喚術で召喚できないんだ。だから人間は人間を、カクレテンはカクレテンを召喚することはできない。けれど、種が異なればいいから、人間は獣人や魔人を、カクレテンは他のテンなら召喚することができるよ」

「へぇー。初めて知った・・・。ふふっ。そういうことなら・・・、はいっ」


諒介の説明を聞いて、目を大きく開いて驚く秋司。

秋司は右手で髪の毛を一本抜き取り、カクレテンの両手の上にそっと置いて手渡した。

カクレテンはそっと微笑み、マイスペースに入れた。


「じゃあね、カクレテン。それと、これからよろしく」


秋司は満面の笑みを浮かべて、右腕をそっと伸ばす、

カクレテンも右腕を伸ばして握手をする。

少しの間握手をして、手をゆっくり離すとカクレテンはこの場を離れて行った。

秋司は離れていくカクレテンを優しい視線で見つめて見送った。


「んんー・・・。疲れたな・・・。さっ、なんとか村に向かおー」


柊真は両腕を上に上げて、身体を伸ばした。


「うん。帰ろ・・・。あれー、今何時ー?」


秋司は疲れた様子で、それでいて清々しい笑顔を浮かべていたが、はっと何かを思い出す。


「今は・・・、六時半です・・・」


カズセは左腕に着けている腕時計を見て、冷や汗をかき、苦笑いを浮かべる。


「どうしよう・・・。ここからソルミレウ村まで歩いて七、八時間。走っても三時間くらいかかる・・・。でも、全員が疲弊している状態だから、もっとかかるかも・・・」


諒介は冷静に状況を分析した。

そんな諒介の言葉を聞いて、全員言葉を失う。


「・・・。よし、気合いで行くしかねーな」

「いいや、気合いじゃ間に合わないでしょ。もうすぐフィーべの血司隊が来るだろうし、状況を話して、なんとかしてもらおうよ」

「もうすぐっていつだよー。時間がねーんだから、急がねーと」

「だからー、状況を話して遅刻してもいいようにしてもらうから、時間の心配はいいのー」

「だからー、そいつらはいつ来んだよー?」


柊真とカズセは徐々に顔を近づけながら言い争いを始めた。


「あっ、いたー。おーい、よっ」

「リスタくんっ・・・、とガゼルがたくさんっ」」


いい案が思い浮かばず、その場に立ち尽くしていた四人の元に一匹のライトニングガゼルに乗り、五匹のライトニングガゼルと共にリスタがやって来た。

秋司はリスタと再会、そしてリスタの状況に驚いて、悩んでいた様子から急に明るい雰囲気になった。

リスタは密猟者を撃退後、ノガアラシと殴り合いをしていた。

しばらくすると、お互いに疲れ、その場に座り込んでいた。

息を整えると、ノガアラシは一枚の羽をリスタに投げ渡して、一言、『じゃあなっ』と言って去って行った。

リスタはキョトンとした顔でその羽を見つめ、なんとなくマイスペースに入れておいた。

そのまま、疲れて座り込んでいたところに五匹のライトニングガゼルがやって来て、今の状況になっていた。


「このガゼちゃんたちが村まで送ってくれるってよっ」

「ほ・・・、ほんとーー?」


リスタの言葉を聞いて、四人は一斉に大声を出した。


「ソルミレウ村まで送ってくれるの?」


秋司はライトニングガゼルに尋ねると、ライトニングガゼルは大きく首を縦に振った。


「ありがとー」


やったー。

ライトニングガゼルの話を聞いてから、ずっと乗ってみたかったんだよね。

でも、ライトニングガゼルは速いって聞いたけど、間に合うかな・・・。

夕方から夜までに着かないといけないんだよね。

ん・・・?

夜って具体的に何時までだろう・・・?

灯詠学園って、結構ざっくりとしているというか、適当というか、凄い自由な学校だよね。

どっちにしろ、僕たちはもう速いスピードで走れないし、スタミナも持たない。

ライトニングガゼルに連れて行ってもらうしかない。


秋司はライトンジングガゼルにゆっくり乗った。


「よろしくっ」


柊真もライトニングガゼルに乗る。


「お願いしまーす・・・。あれ。もしかして、昨日のライトニングガゼル・・・?」


諒介もライトニングガゼルに乗ろうとする。

しかし、そのライトニングガゼルの顔を見て、昨日扉に頭突きをして負傷したライトニングガゼルだと思い、尋ねた。

そのライトニングガゼルは首を縦に振り、諒介に乗るよう促した。

諒介はゆっくりとライトニングガゼルに乗った。


「傷はもう大丈夫?」


諒介はライトニングガゼルに声をかけると、ライトニングガゼルは再び首を縦に振った。


「う・・・」


三人がライトニングガゼルに乗る中、カズセだけは苦い表情のまま固まっていた。


「あれぇー? カズセくん、どうしたのー? まさかー・・・、怖いのかなぁー?」

「いっ・・・。こ、怖くねーよ・・・」


リスタはカズセの様子を見ると、ニヤニヤしながら挑発的に声をかける。

カズセは、口では強がりながらも、冷や汗をかき、手も震えている。


「よし、全員乗ったな。それじゃあ、ガゼちゃん。頼むよー。思いっきり飛ばしちゃってくれっ」


全員がライトニングガゼルに乗ったことを確認すると、リスタは五匹のライトニングガゼルに呼びかけた。

すると、ライトニングガゼルは途轍もないスピードで走り始めた。


「ひゃっほーーう。さいこーーう」

「うわああああ。はやーーい」

「ああああああ。すげーー」

「うあああああ。は、速すぎるよー」

「おーおーおーおー・・・。はえーよ。止めて・・・。止めろーー」


ライトニングガゼルのスピードを感じて、リスタ、秋司、柊真、諒介、カズセが順に大声を発する。

ライトニングガゼルは猛スピードで走りながら、木々を華麗にかわしていく。


凄い・・・。

こんなに速いスピードで走りながら、簡単に木々を避けている。

方向転換が上手すぎる。

それにスピードの強弱、猛スピードから急にブレーキをかけて、またすぐに猛スピードを出せている。

機動力が高すぎる・・・。

諒介くんが移動に関しては最高クラスって言っていたけど、想像していた以上に凄い。

ただ・・・、しっかり掴まっていないと、すぐに落ちちゃう・・・。


秋司はしっかりガゼルの身体に掴まった。

ライトニングガゼルはあっという間に森を抜け出し、草原に出た。

草原に入ると、さらにスピードが上がる。


わぁー、綺麗・・・。

それに気持ちー。

速過ぎてよく見れないし、少し寒いけど・・・。


秋司は草原を照らす夕日と草原を揺らす風を感じて、表情が輝くが、あまりの速さで少し歪む。

カズセは既に意識を失って前に倒れている。

しかし、前に倒れていることでしっかりとガゼルに掴まることができており、落ちることなく進んでいる。


「ガゼちゃーん。ずっとまっすぐもあれだし、このスピードのまま、ジグザグに進んでよっ」


リスタは自分を乗せているガゼルに提案すると、ライトニングガゼルはスピードを維持したままジグザグに進み出した。


「ふぅーーぅ。やべぇーー。さいこーー」


あはは・・・。

リスタくん、楽しんでいるな・・・。


「なぁ、次は急ブレーキしてみてよっ。このスピードから、完全に止まってみてっ・・・。うわああああああ・・・」

「り、リスタくんっ・・・」


リスタの提案を聞き入れて、ライトニングガゼルは急ブレーキをかけた。

すると、リスタは、空中で前に何回も回転しながら吹き飛んでいった。

やがて地面に落下して、その後も地面をくるくると転がっていき、しばらくすると逆さになった状態で、木に背中をぶつけて止まった。


「あはは・・・。これは・・・、幻覚かな・・・。地面が動いている・・・」


リスタは目が回っているだけなのだが、何かの幻術だと思いながらも動けず、その場で静止している。

少しすると秋司たちがリスタの側を通り、リスタはいまだに治らない()()を感じながらもなんとかライトニングガゼルに乗り、再びソルミレウ村に向かった。

さっきまでとは異なり、視界が回ったままのリスタは、静かにライトニングガゼルに掴まっている。




しばらくして月明かりが村の灯火を燃え上がらせている頃。

秋司たちはソルミレウ村に到着した。


「送ってくれてありがとう」


秋司は五匹のライトニングガゼルに優しい笑顔を向ける。

リスタは明るい表情を、柊真もリスタと同じような明るい表情を、諒介は穏やかな微笑みをライトニングガゼルに向けている。


「う・・・。おーうぇっ・・・」


カズセは近くの木にもたれかかり、ぐったりとしている。


ライトニングガゼルは秋司たちを少しの間見つめると、四匹のライトニングガゼルはゆっくりと去っていく。

残った一匹のライトニングガゼルは諒介に近づき、自身の毛を渡す。


「え・・・。僕に・・・? ありがとう・・・」


諒介は一瞬戸惑うも、嬉しさ漂う微笑みを浮かべながら毛を受け取り、自身の髪の毛を二本ほど抜き取り、手渡そうとする。

しかし、ライトニングガゼルは首を横に振りそのまま背を向けて去って行った。


「ぷぷっ。諒介、振られちゃったんじゃなーい?」

「まあ、そんなに落ち込むなよー。はっはっは」


その状況を見て、さっきまで力無く木に寄りかかっていたカズセは突然元気を取り戻して諒介にニヤニヤしながら声をかける。

柊真は右手で諒介の背中を撫でながらも、どこか嬉しそうに声を上げる。

ライトニングガゼルは基本的に召喚術も変身術も使えない個体が多いため、諒介の髪の毛を貰っても使い道がない。

それゆえ毛を受け取らずに、去って行ったのだが、諒介はその知識を持っていながらも、その事を思い出せず、しゅんと肩を落としていた。

秋司たち五人はライトニングガゼルの姿が見えなくなるまで見送り、ソレミレウ村の中に足を踏み入れた。

ソルミレウ村内には、既に灯詠学園の他生徒の姿は見当たらない。

しかし、ソルミレウ村は明るく騒がしい雰囲気だ。

踊っている人、ベンチに腰を下ろして明るく話している人、歌を歌っている人など、様々。


ソルミレウ村の人たちは元気があって、みんな仲がいいんだなぁ・・・。


秋司がソルミレウ村の村民を見つめていると、フラフラとした足取りの諒介が秋司にぶつかった。


「ん・・・。諒介くん、大丈夫?」


秋司は諒介の左腕を優しく掴んで、支える。


「うぅ・・・。ごめん・・・。こ、このまま支えてもらってもいいかな・・・?」

「うん、もちろんいいよ」


諒介くん、疲れているよね。


諒介は力がこもっているようで、力がないような声を発し、秋司に尋ねる。

秋司は微笑みを浮かべて、諒介を支えて歩く。

少しすると、灯詠学園の教員がいる中央付近の建物に到着した。

その建物内に入ると、滝埼隆麻が椅子に座って、長テーブルに両腕を、肘を曲げながらつけ、顔を両腕の中に埋めて、寝ている。


「滝埼先生、あのー・・・」


秋司は小さい声で隆麻に声をかけるが、反応がない。


「すみません・・・。先生・・・」


建物内に入り、少し元気を取り戻した諒介が声をかけるが返事がない。


「・・・。おーーいっ。報告しに来たぞーーっ」


起きない隆麻を見て、柊真は大きな声で呼びかける。


「んん・・・。う、うるせー・・・」


隆麻は柊真の大きな声に反応し、眉を寄せ、不機嫌そうに目を開ける。


「随分と遅かったな・・・」


隆麻はゆっくりと身体を起こし、眠そうに目を細めている。


「すみません。色々あって・・・」

「んー? 別に攻めている訳じゃねーよ・・・。名前、順に言って・・・」


秋司が申し訳なさそうに謝ると、隆麻はテーブルに置いてあるクリップボードを手に取りながら眠たそうに小さい声で声を出す。

秋司たちは順番に名前を伝え、灯詠学園に向かう最終のバスが停められているソルミレウ村の外に向かった。


こうして、入学してすぐ行われた課外学習は終わりを迎えた。


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