60話 諒介&カズセVS李朽
「さてと・・・。どうするかな・・・」
めんどくせーけど、考えるか・・・。
密猟者四人に囲まれているリスタとノガアラシ。
リスタは四人を順番に見る。
こいつらは匂いを増強させる幻術を使う。
それ以外は知らん。
俺は鼻がいいからな・・・、多分。
臭い匂いとか増強させられたら、やばいな。
といっても、正面戦闘には向かないから、使ってこないと思うけど、匂いを過剰に感じたら鼻で呼吸するのはやめよう。
そして、二人は昨日追いかけてきていた奴らだろう。
あの時、既にかなりのスタミナを消費して、疲労が溜まっていたけど、まったく追いつかれなかったから、身体能力は低いと考えていいだろ。
つまり、近接戦ならこっちが有利だ。
リスタは、四人のことを覚えていなかったが、四人の会話から昨日トラックに乗っていた密猟者だと予想し、考えを巡らせていた。
「おい、鳥野郎。ぶっ飛ばすなら半分は任せていいんだよな?」
「ゴォー」
リスタの呼びかけに返事をするノガアラシ。
「何言ってんのか、分かんねーけど、任せろってか? それは、頼もしいですよー。じゃっ、頼んだよー」
リスタはノガアラシに声をかけ終えると、密猟者AとCに、すぐに接近し、打撃を繰り出す。
「ガキー。舐めやがって」
密猟者AとCはリスタの近接戦に応じ、打撃を繰り出す。
しかし、リスタはそれを簡単に避けていく。
やっぱり、遅い。
これなら二人相手でも、簡単に避けられる。
それなら、簡単だ。
あとは強い攻撃を当てればいいだけ。
リスタは打撃を避けながら血転図式を描く。
身体術の基本図式を描き、発動図式に丸を二回描く。
「血転術、身体術力壱」
力を少し増幅させる身体術だ。
今のリスタは属性術、そして、入学試験の時には扱えなかった変身術と身体術を扱うことができる。
「おらよっ」
リスタは二人の打撃を避けながら、隙を突いて右拳を密猟者Cの腹部に当てる。
「ごはっ」
密猟者Cは後方へ吹き飛んだ。
「何・・・? ぐあっ」
密猟者Aは吹き飛ぶ密猟者Cに気を取られ、リスタが飛びながら放った左ハイキックが右頬に当たり、その場に倒れる。
「ふぅー。終わったな・・・。いっ・・・。あ、あぶね・・・」
リスタは身体術を解き、笑みを浮かべていると、右の方から密猟者Dが勢いよく飛んできた。
なんとかギリギリで避けたリスタ。
リスタが右を向くと、ドロップキックをしたであろうノガアラシとその場に倒れている密猟者Bが視界に入ってきた。
あ・・・。
なんつー威力だよ・・・。
今の、あいつが吹っ飛ばしたんだろ?
もしかして、コイツ・・・、めっちゃ強い・・・?
いいや、それよりも・・・。
「あぶねーだろーがー。ぶっ飛ばすなら、違うところにぶっ飛ばせよー」
「グァー」
「あっ? 何言ってんのか分かんねーけど、お前がそこにいるのが悪い・・・、だとぉー。やんのかテメェー」
ノガアラシの実力に、冷や汗をかいて驚いていたリスタだったが、すぐに戦闘体勢に入る。
「あー、待て待て。テメェーをぶっ飛ばすのは後だ。こいつら、誰かと連絡を取っていただろっ。まずはそいつらだ。テメェーはその後っ」
リスタは密猟者Aの左耳についている通信機を取り、通信を試みる。
「えぇー、あぁー。こちら、焼き鳥店の店長。猿はどこですかー? 応答お願いしまーす」
リスタは声を密猟者Aに寄せて低くしながら呼びかけた。
「グァー」
「いっ・・・。違う・・・。お前のことじゃないから・・・。落ち着けって・・・。ああ、返事が来たから、静かにー・・・」
リスタの言葉を聞いて、リスタに飛びつき、じゃれ始めるノガアラシ。
リスタはなんとか宥める。
「ああ。ええっと、確かお前らがさっきいた位置から北西に進めば遭遇するはずだ」
「そうですかー。ところで司令官はどこにいるんでしたっけ?」
「ああ? 何を言っている? 俺は気球に乗って、空から指示を出すと伝えてあるだろ」
やっぱり、空か・・・。
「あはは、そうでしたね。あれー、そういえば、司令官はどうやって猿の居場所を見つけ出しているんでしたっけ?」
「それも話しているだろ。熱感知メガネだよ。これでニバシシオザルの動きを空からでも確認できる」
熱感知?
それでこの広い森の中にいる、猿の居場所を特定しているのなら、そのメガネはかなり優れているな。
生成術で作られているメガネか?
ふっ。
それ、いただくか・・・。
リスタは悪い笑みを浮かべて、空を見上げる。
ただ、どうするか・・・。
秋司みたいな風転を使えないし、今使える身体術もパワーとスピード、そして血転術の威力を上げることしかできない。
「ゴォー」
「ああ? 何言ってんのか分からねーけど、どこにいるのかだって? 空だってよっ」
「ゴォー」
「あ? じゃあ、行って来い・・・だと? 行きてーけど、行けないんだよ・・・」
「ゴォーー」
「んっ? 俺が連れてってやる・・・? どうやって?」
リスタはノガアラシの言う通り、思いっきりジャンプする。
ノガアラシはリスタの足裏に向かってドロップキックを放つ。
リスタはノガアラシのドロップキックが足裏に当たると同時に、再び思いっきりジャンプをする。
すると。
「うわああああ。すげーー」
リスタは勢いよく空中に飛んでいく。
見えたぜ、気球。
リスタは勢いそのまま気球に辿り着き、吊り索を右手で掴み、左膝で密猟者E、司令官の顔の下側を蹴る。
「なんだお前は・・・、ぐはっ」
「これが熱感知メガネか。ふっ。お前のメガネはもういらなーい」
リスタは密猟者Eがかけていたメガネが気球のバスケットに落ちる前に左手で取り、もう一人の司令官、密猟者Fの顔面を右足裏で蹴り、密猟者Fがかけているメガネを壊す。
リスタは熱感知メガネをかけて気球から降りようとするが。
「え・・・。やべぇ・・・。考えていなかった・・・。どうやって降りよう・・・。あっ? なんだあれ? 雷・・・。げっ・・・」
リスタがどうやって降りるか考えていると、気球の上から雷が落ちた。
「あ・・・、あっぶねーー。なんだぁ? 今の雷は・・・」
リスタはなんとか気球から離れたことで、雷には当たらなかった。
雷が命中した気球は、バランスを崩しながら落下していく。
「んっ。おいおいおいおい。結局落ちてるじゃんっ。チッ。血転術、身体術血壱。かーらーのー、血転術風転、風出」
リスタは落下しながら身体術の基本図式を描き、発動図式に星を二回描く。
血転術の威力を上げる身体術だ。
リスタは落下地点に、威力の上がった風出を放ち、落下スピードを和らげる。
そして、ゆっくりとノガアラシの近くに着地する。
「おい、テメェー・・・。お前が雷を落としたんだろ・・・」
「グァー」
「何言ってんのか分かんねーけど、ああ・・・、じゃねーよ。雷落とせんなら、なんで俺を飛ばしたわけ? 最初から落とせよ、鳥野郎ー。約束通り、次はテメェだ・・・」
「グァーー」
「ああ、上等だぁー」
リスタとノガアラシはその場でじゃれあいを始める。(一応、リスタもノガアラシも真剣に殴り合っているが)
一方、リスタが密猟者四人と戦っていた頃。
諒介とカズセは李朽と戦っていた。
「血転術岩転、尖礫飛」
李朽は岩転の基本図式を描き、発動図式に四角を三回描く。
すると、二十センチほどの岩片が八つ、李朽の周りに浮き上がり、一斉に諒介に向かって飛ぶ。
しかし、諒介に当たる前に、グラエアギツネが全て凍らせる。
が、四つの岩片は止まることなく、諒介に向かった。
一瞬凍りついて止まったことで、なんとか見切り、避け切った諒介。
「・・・。見え見えだぞ」
李朽はカズセが右人差し指で発動した操術を見切り、狙いからかわす。
「ふっ」
しかし、カズセの狙いはその先にある枝で、カズセは木の枝を操術で操り、枝を伸ばして李朽の左足首に巻き付かせ、枝を縮める。
すると、李朽は逆さになり、枝に引っ張られて地面から離れていく。
諒介はその隙に、逆さになってぶら下がっている李朽の顔目掛けて、ソイル・グローブを纏ったまま左ストレートを放つ。
「血転術操術、弾飛」
李朽は操術の基本図式を描き、発動図式に扇、丸、扇を描いた。
そして、左人指し指を向かってくる諒介に向け、上にパンっと弾くように動かすと、諒介は後方へ弾き飛んでいく。
「ぐはっ・・・」
そのまま地面に背中から落下する。
カズセは、右人差し指で枝を固定したまま李朽に接近し、左足で顔目掛けて蹴りを放つが、李朽は枝から外れ、落下しながらそれを避けると、空中で体勢を立て直してカズセの下から風転風出を放った。
「ぐあああ」
カズセは上空に吹き飛び、やがて地面に背中から落下した。
く・・・。
強い。
血転図式を描くのが早い。
それに、術の発動もスムーズ。
どんな体勢でも図式を描けるのか。
諒介は起き上がりながら李朽に視線を向けるが、突如霧が漂い始めた。
霧・・・?
違う、これは・・・。
よし、分かった。
諒介は右手のソイル・グローブを解除し、業血司を左拳に集める。
ソイル・グローブは身体術と同じように、発動中、常に業血司を消費し続ける属性術。
諒介は両拳に発動していたが、右拳に纏っていたソイル・グローブを解除したことで、左拳に業血司を集中的に集められている。
「くっそ・・・。あいつー・・・。なんだ? 霧? 急に? しかも、なんかとんでもない化け物がいるんだけど・・・」
起き上がったカズセは李朽がいた方を見ると、霧で李朽の姿は見えないが、うっすらと熊を巨大化したような怪物の影が視界に入ってきた。
「なんだ、こいつは。実態が見えない」
李朽の前には、霧でできた巨大な熊のような生物が立っていた。
その生物は上から李朽に右拳で殴りかかる。
李朽は後方に下がって避けると、右拳は地面に当たり、地面に右拳の跡がつく。
(跡がついた。ということは、幻術じゃない。もしくは視覚に直接作用する幻術か)
幻術を疑っている李朽は自身に回復術をかける。
回復術の基本図式を描き、発動図式に丸、六角形、ハートを描く。
視覚に直接作用する幻術を解除する回復術だ。
(・・・。変わらない。ということは、やはり幻術じゃない)
李朽は幻術ではないと考え、その生物の打撃を避ける。
その生物の打撃を避け、地面に着地すると。
「何・・・? 氷?」
李朽の足元が凍りつき、身動きが取れなくなる。
(落ち着け。すぐに解ける。あの生物さえ注意すればそれでいい・・・。何っ。どこに行った)
李朽は巨大な熊の様な生物を見失った。
(あの巨体を見失うだと・・・。大丈夫だ。氷から脱した・・・。なんだとっ。また両足が動かなく・・・。これは操術? はぁっ・・・)
李朽は再び動かなくなった足を見ると、霧が晴れ、前を向くとすぐ近くに諒介が接近していた。
諒介は左拳に業血司を限界まで溜めたソイル・グローブで李朽の顔を正面から思いっきり殴る。
「何・・・。ぐっっ・・・」
李朽はまともに食らい、勢いよく後方へぶっ飛び、離れた位置にある岩に背中から衝突する。
「やった・・・」
李朽が見ていた巨大な熊の様な生物は、グラエアギツネが発動した業血司で作り出すタイプの幻術。
李朽はその生物の右拳が地面に当たり、地面に跡がしっかりとついたことを確認して、この選択肢を消していたが、グラエアギツネはかなり細かいところまで繊細に幻術を作り出していたのだ。
そして氷で動きを止めた。
しかし、李朽の動きを完全に封じることはできず、解除されたが、李朽に近づきしっかり視界に捉えたカズセが操術で両足の動きを封じたことで、諒介のソイル・グローブがまともに入ったのだ。
しかも、全く予測していないところから。
そのため、ダメージはかなり大きい。
「く・・・。これが灯詠学園の生徒か・・・。ふんっ。ふざけるなよ。何が灯詠だ・・・。ふざけんなーー」
李朽は今までの落ち着いた様子とは異なり、大声を上げながら諒介とカズセの元に戻って来た。
「う・・・。まだ、戦えるの・・・?」
「マジかよ・・・」
諒介とカズセは冷や汗をかきながら、驚きと不安を抱く。
「でも、俺たちもまだ戦える・・・。そうだろ?」
「うん。戦えるよっ」
笑顔で尋ねるカズセの問いに、同じく笑顔で答える諒介。
諒介、カズセ、グラエアギツネと李朽は再び戦い始めた。




