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59話 VSへムン、李朽、四人の密猟者

フィーべ東部エリア三にある森の中で、密猟者のヘムンと視線を交わしている秋司と柊真。


木々が燃えているように見せる幻術はこの人がやったと見ていいはず。

つまり、業血司で作るタイプの視覚的幻術を使える。

今はそれしか分からないけど、昨日戦った人より、明らかに強いのは分かる。


「召喚術、発動」


何っ?

召喚術・・・。


ヘムンはポケットから取り出した、小さな巣の様なものを使って、召喚術を発動した。

すると、手と同じくらいの大きさをした蜂の様な生物が十匹現れた。


は、蜂?

蜂にしては・・・、大きいよね・・・。


秋司は目を大きく開け、蜂の様な生物、チャーフビーを見つめる。


「はっはっは。やっちまえー」


へムンの合図で、チャーフビーは五匹ずつ秋司と柊真に向かって飛んでいく。


「血転術水転、水放」


柊真は水放を二回連続でチャーフビーに放つが、チャーフビーはそれを避けて柊真に近づく。


「血転術、結界」


秋司は自身と柊真の前に一つの結界の壁を張り、チャーフビーは結界と衝突するが地面に落ちることなく飛んでいる。


蜂ってことは毒を持っている可能性がある。

僕は回復術を使えないけど、まりすけを召喚できるし、柊真くんは回復術を使える。

毒を対処することはできる。

ただ、数が多い・・・。


「召喚術、まりすけー」


秋司はマイスペースからまりすけの毛を取り出し、召喚術を発動した。


「ようー、秋司ー・・・。って、蜂がたくさんー・・・。でけーー」


召喚されてすぐに驚き、ジタバタするまりすけ。


「まりすけ。僕と柊真くんが刺されたら、解毒を頼むよ」

「は、はいよー・・・」


まりすけはビクビクと震えながらチャーフビーを見つめている。


「血転術岩転、岩棘」


へムンは岩棘を飛ばして、結界の破壊を試みる。

が、秋司の張った結界は壊れない。


「チッ。少しはやるのか・・・」


へムンは壊れない結界を見て、小声を漏らす。


(くっ・・・。あいつに近づきたいけど、術を打った後の隙を狙っても、蜂がいて近づけない・・・。そうだっ)


「秋司ー。召喚術で熊とか召喚できない?」

「えっ、熊? 熊は召喚できないな・・・」


柊真の提案に応えられない秋司。

秋司は現状、まりすけしか召喚できない。

熊といえば、ごまきちがいるのだが、秋司はごまきちの毛など、ごまきちの一部を持っていない。


なるほど。

柊真くんの考えは、蜂といえば熊が苦手ってことだよね。

うーん、熊を召喚できない以上、変身術が有効だけど、僕も柊真くんも変身術を使えない。

あとは・・・。

やってみるか。


秋司は幻術の基本図式を描き、発動図式にひし形を二回描く。

業血司で作り出す幻術でごまきちを出現させた。


「わーぉ・・・」


柊真はごまきちの迫力を見て、驚きの小声を漏らした。

ごまきちを見たチャーフビーはごまきちから離れていく。


よしっ。

あの蜂、幻術を見破れていない。

ただ、問題は・・・。


「ふっ。幻術なのはバレバレだ」


へムンは幻術の基本図式を描き、発動図式に扇を二回描く。

業血司で作り出すタイプの幻術を払う血転図式だ。

それにより、ごまきちは消えていく。


だよね・・・。

バレバレだよね・・・。

蜂には効いても、あの人にはバレるから、解除されちゃう。


秋司はへムンを見つめる。


「・・・。なんだ? 猿を見つけた? ああ、それならあいつの方が近いだろ。あいつに頼め。俺は今、灯詠学園の優秀な生徒さんをボコボコにしたいんだから、邪魔すんなっ」


へムンは左耳に付けている通信機で仲間と会話をしている。


「猿って・・・。ニバシシオザル?」

「んっ? なんだ? 知ってるのか?」


会話を聞いていた秋司はつい声を漏らしてしまう。

へムンはそんな秋司の声に反応する。


なんで?

偶々見つけたのか?

この人たちの作戦には引っかからないはず。

幻術を防げるはずだし・・・。


「ん? なんか不思議そうな顔をしてるなぁ。まさか、ニバシシオザルは幻術を見破れるって思っていたのか? それとも、捕まえられねーと? 残念だが、猿は幻術を見破れねーよ」

「えっ? なんで・・・」

「なんでって、生成術で見破れると知らねーからだよ。それに、見つけさえすれば、操術で簡単に動きを封じられる。単純な戦闘力は、低いからな」


何っ・・・。

そっか・・・。

どんなに賢くても、どんなに生成術が凄くても、知らなければできない。

それに、操術・・・。

完全に忘れてた。

くっ・・・。

自分が操術を使えないから、気が付かなかった。

まずい、この人の仲間がニバシシオザルを見つけたのなら、探しに行かないと。

捕まっちゃう・・・。

でも、この人と蜂のせいで、身動きが取れない。

そもそも、この人の仲間がどこにいるのかも分からないし。


秋司は苦い表情を浮かべた。




一方、カズセと諒介も、幻術で燃えている木の近くに来ていた。


「木が燃えていたから、近くに来てみたら・・・」

「うん。ビンゴだったね」


諒介とカズセは、幻術で燃えている木々の近くに足を運ぶと、一人の業血司使いと接敵した。

その業血司使い、李朽りくは幻術の炎から逃げるニバシシオザルを見つけ、操術で数匹の動きを封じ、捕らえていたが、そこにやって来た諒介とカズセに邪魔をされ、操術を解除されていた。

自由を取り戻すと、ニバシシオザルはこの場から離れていった。


「・・・。邪魔をしている子供は、へムンの奴と戦ってるんじゃなかったの・・・。まあ、いいか。君たち、灯詠学園の生徒でしょ・・・? それなら、邪魔をしてくれてありがとう・・・」


李朽は静かに微笑みを浮かべ、操術の血転図式を描き、右人差し指をカズセに向ける。


「う・・・。しまった・・・」


カズセは李朽の操術にかかり、右足が動かなくなる。


「ふんっ。ほらっ」


李朽は右人差し指をクイっと上に動かすと、カズセの右足は前を蹴り上げるように上がろうとする。


「血転術土転、土固」


諒介はすぐにカズセの足元を土で固め、足の動きを封じる。

さらに、すぐに李朽に接近する諒介。

そのまま、打撃を繰り出すが李朽は簡単に打撃を避ける。

隙をついて右横蹴りを腹部に当て、諒介は後退して左膝を地面につける。


ダメだ・・・。

一対一の近接戦では勝てない。


「血転術、召喚」


諒介はホッキョクギツネの様な生物、グラエアギツネを召喚した。

白と薄い水色が入り混ざった身体に、目と鼻はオレンジ色をしている。

大きさなどはホッキョクギツネと変わらない。

グラエアギツネが地面に着地すると、足元が少し凍りつく。


「・・・。あの狐は・・・。フィーべ北部に生息している、絶滅危惧種・・・。かなり珍しい生物・・・」


李朽はじっとグラエアギツネを見つめる。


「ん・・・」


そんな李朽の右横から、操術から解除されたカズセが右人差し指で李朽の右腕に操術をかける。

カズセは属性術と変化術、幻術と操術を扱うことができる。


「操術・・・」


李朽はカズセに接近しながら、左手で血転図式を描く。


「血転術岩転、岩棘」


李朽は岩棘をカズセに放つが、カズセの前にグラエアギツネが立ち、そのまま八つの尖った石の間を華麗に避ける。

グラエアギツネは岩棘を全て避け切ったはずだが、八つの石は全て空中で凍りつき、岩棘はカズセに当たらなかった。


「すげー・・・」


その光景に、カズセは驚き、固まる。


(あの狐、しなやかな動きだな。それに速い)


李朽は足を止め、立ち止まる。


「血転術土転、ソイル・グローブ」


諒介は土転の基本図式を描き、発動図式に丸、五角形、丸を描く。

すると、土が諒介の右拳と左拳の周りに、回りながら集まってくる。

諒介は李朽の背後から右ストレートを放つ。

グラエアギツネに夢中になり、反応が遅れ、さらに右腕もカズセの操術に捕まって自由に動かせない李朽はなんとか左腕を上げてガードするが、衝撃を抑えられず、顔に命中する。


「ぐはっ・・・。く・・・。厄介だな・・・」


ソイル・グローブを纏っていることで、単純なパンチの威力が上がっている上に、土が舞い李朽の視界が悪くなる。


今がチャンス。


(今だ)


諒介とカズセ、グラエアギツネは動きが止まった李朽に、一斉に接近する。


「血転術風転、風広ふうこう


李朽は風転の基本図式を描き、発動図式に丸、三角、扇を描く。

すると、李朽を中心に、李朽の姿が見えなくなるくらいの竜巻が発生し、徐々に風が広がって土と共に諒介、カズセ、グラエアギツネを吹き飛ばす。


「うわあああ」

「ぐはっ」


諒介とカズセ、グラエアギツネは後方へ吹き飛び、やがて着地する。




秋司と柊真がへムンと、諒介とカズセが李朽と戦っていた頃。


「ったく・・・。めんどくさいなー・・・」


リスタは同じ森の中でニバシシオザルを探していた。

その途中で、四人の密猟者と遭遇し、今、囲まれている。

そして、そんなリスタと共に囲まれている生物が一匹。


「で・・・。どうするんですかぁー? 隊長・・・」


リスタの視線の先には、ノガアラシの姿があった。

昨日からずっと共に行動しているリスタとノガアラシ。

お互い、ついて行ってる訳ではなく、肉を奪い合ったり、偶々行き先が同じということで、結局今も共に囲まれている。

そんなリスタとノガアラシを囲んでいる密猟者は、昨日トラックでライトニングガゼルを連れ去ろうとしていた四人だった。

二人は動物の波に飲まれて気を失っていた密猟者CとD。

もう二人は、秋司と柊真に倒された密猟者AとB。


「貴様ー。昨日はよくもやってくれたなー」

「あっ? なんのことだ?」


密猟者Cは怒り気を含んだ声を発するが、リスタは密猟者Cを覚えていない。

というより、ここにいる四人とも覚えていない。


「ピー・・・。んっ? なんだ? 猿を追え。お前らが一番近い・・・。はいはい。このガキを倒したら向かいますよ」


密猟者Aは左耳に付けている通信機で仲間と連絡を取る。


んっ?

連絡を取っている。

猿を追え、お前らが一番近い。

話している相手は猿の居場所が分かりながらも、自分では動かない。

ということは、司令官みたいな人間がどこかにいるのか。

一番可能性が高いのは・・・、空かな。

まっ、何にしろ、こいつらを倒さねーと身動きを取れそうにないけど。


リスタは面倒臭そうに視線を細めて密猟者を見渡す。


「ゴォー」

「いっ・・・。なんだよ? 何言ってんのか分かんねーけど、ぶっ飛ばす・・・のか? ああ、オーケー、隊長。ぶっ飛ばすか・・・。って、なんでテメェーは隊長ぶってんだぁー?」


リスタは、自分でノガアラシのことを隊長と呼びながらも、急に隊長みたいな様子で指示を出すノガアラシにツッコミを入れた。


(・・・。お前が隊長って呼んだんじゃん・・・)


ノガアラシは薄い視線をリスタに向けた。


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