58話 襲われる森 ニバシシオザルを探しだせ
「んんーっ・・・」
課外学習三日目の朝。
両腕を上げながら、身体を伸ばす秋司。
この日は一人テントで一晩を過ごした秋司。
リスタが一人、はぐれているからだ。
カズセは一日目の夜同様、柊真のテントで過ごし、諒介は自分のテントで過ごしていた。
四人は起きて、軽く朝食を取ると、すぐにその場を出発した。
少し歩くと森に着いた四人。
四人はここでリスタを探し、合流してからニバシシオザルが生息している森に向かう予定だ。
うーん、リスタくん、どこにいるんだろう?
あれ、なんだろう、これ?
秋司は辺りを見渡しながら歩いていると、木に書かれている文字を見つけた。
そこには、矢印とリという文字が書かれていた。
「これって・・・。もしかして、リスタくんの字かな」
「うん、リスタの字だね」
秋司が三人に声をかけると、その文字を見たカズセが答えた。
この矢印の方向、ソルミレウ村の方角だ。
リスタくん、ソルミレウ村の方角に進んでいる。
それなら、僕たちもこのまま進もう。
秋司たち四人はソルミレウ村の方角へ向かって歩き始めた。
ここからあの森まで、かなり遠い。
急ぎたいけど、スタミナが持たない。
四人は早歩きで進んでいると、あっという間にお昼になった。
四人は草原で軽く昼食を取り、すぐに歩き始める。
午後四時頃、ようやく目標の森に到着した四人。
やっと着いた・・・。
ここから、どうやってニバシシオザルを探そうかな。
一日目、ここに来た時は姿を見なかった。
珍しいから、見つけるのも大変かな。
あの人たちの仲間は、まだ来ていないのかな。
もし、もう連れ去られちゃっていたら、どうしよう・・・。
ううん、まずは探そう。
少なくとも、僕たちがここへ向かっている間に、トラックは見かけなかったし。
リスタくんもこの森でニバシシオザルを探しているはず。
僕たちは手分けをして探した方がいいんだろうけど、はぐれちゃうと困るし・・・。
「ここは二人ずつ手分けして探そうよ」
秋司が考え込んでいると、諒介が三人に提案した。
「うん、それがいいとは思うけど・・・。どうやって合流する?」
「時間を決めて、その時間に血転術を上空に放って合図するとかはどうかな?」
「賛成ー。そうしようー」
その手があった。
秋司は諒介の案を聞いて、思い出したかのようにパッと表情が明るくなった。
秋司と柊真、諒介とカズセのペアに分かれて、リスタとニバシシオザルを探し始めた。
四人は六時に炎球を放って居場所を確認して、合流するための移動を開始することに決めた。
「秋司、俺は上から探す。秋司は下から探してくれっ」
「うん、分かったー」
柊真は木の枝に飛び乗り、木々を移動してニバシシオザルを探す。
秋司は地面を走りながら探す。
ここまで、無茶はしてこなかったから、スタミナは十分残っている。
うーん、あの人たちの手口は、まず匂いで釣って地下に誘い込む。
その後、出口から出て、トラックで連れ去る。
だから、まず匂いがするはず。
猿が好きな食べ物って果物とか木の実とかかな。
だとすると、甘い匂い。
地下があるなら、無理やり地面を掘って地下通路に下りるのもありかな。
でも、これらは全て、昨日と手口が同じ場合の話。
そもそも、昨日行った森には地下があったけど、あの地下はあの人たちが作ったのか分からないし。
元々存在していた可能性もある。
あー、考えても分からないよー。
でも、考えないとダメだよね。
まず、地下がある場合、昨日と同じ手口の可能性がある。
地下がない場合は、どうやってニバシシオザルを誘き寄せるか。
匂いを使う場合、どこかに檻を設置している可能性が高い。
もしくは捕まえるための罠。
諒介くんの情報だと、ニバシシオザルは気性が荒くなくて、戦闘は好まない。
そして、警戒心が強く、慎重。
だから、業血司使いの姿が見えるところには易々行かない可能性が高い。
・・・。
それだと、僕たちが見つけることもできないような・・・。
「ああ、君たち。ここは危険だよ」
秋司が考えを巡らせていると、一人の旅人らしき人間が走りながら話しかけてきた。
「危険・・・ですか?」
「早く逃げないと。さっき燃えていたんだよ。この森の木が。だから早く逃げて」
旅人はそう言い残すと、すぐにこの場を去って行った。
燃えていた?
「柊真くん。思いっきりジャンプして、燃えている木があるか確認してっ」
「おうっ」
柊真は太い枝を足元に、思いっきり上空にジャンプして、森を見渡す。
「はっ・・・。燃えてる・・・。秋司ー、森の中央に燃えてる木がいくつかある」
柊真の視界には、いくつかの燃えている木が入ってきた。
森の中央・・・。
まさか、森の中心地から外へ、木々を燃やしていって、ニバシシオザルを森の外へ追い出す気なのかな?
ニバシシオザルは警戒心が強い。
匂いで釣るより、その警戒心を利用して森に火を放った。
でも、こんなに広い森を焼き払うのは、無理なんじゃ・・・。
それに、森が燃え切る前に、フィーべの血司隊が来るはず。
いいや、それどころじゃない。
考えている暇はない。
早く火を消さないと・・・。
秋司と柊真は、燃えてる木を目指して、走り出す。
「んー・・・。なんか違和感がある・・・。感だけど・・・」
柊真は木々の枝を飛び移りながら、さっき見た燃えている木を思い出していた。
「違和感?」
「うん。ただの感覚だけど、なんか本当に燃えている感じがしなかったんだよなー。ほら、俺たち昨日と一昨日の夜、焚き火を起こしていただろ。その火を見ていたせいか、なんかあの炎は違和感があるんだよね・・・」
違和感・・・。
もしかして、幻術?
もし幻術だとすると、離れた位置にいる柊真くんの目にも映っているってことは、業血司で作り出すタイプの幻術の可能性が高い。
それだと、生成術に長けていて、頭もいいニバシシオザルなら、見破ることができるかも・・・。
「あっ・・・。どういうことだ? さっきより火が森の外に向かって広がっているんだけど・・・。さっき燃えていた木々、森の中心に近い木々が燃えていない。何もなかったかの様に元通りだ・・・」
「えっ・・・」
柊真は思いっきりジャンプして、再び燃えている木を確認すると、さっきまで燃えていた森の中心にある木々は何もなかった様に火が消えており、その外側の木々が燃え始めていた。
これでハッキリした。
幻術だ。
あの人たちは、森の外にニバシシオザルを追い払うつもりだ。
でも、幻術なら当然鎮火する必要はないし、生成術で解ける。
そして、この騒動を起こしている犯人は幻術の近くにいる。
秋司と柊真は燃えている木々目指して、スピードを上げた。
少しすると、逃げてくる動物の姿が見えてきた。
ニバシシオザルは灰色の身体に明るい茶色のたてがみがあってライオンみたいな尻尾をしているんだよね。
うーん、見当たらない・・・。
猪とか、小さい熊とか、鹿とかの姿は見えるけど、ニバシシオザルの姿は見えない。
生成術で幻術を見破って、逃げていないのかな?
でも、捕まえようとしている業血司使いが近くにいるはず。
うん・・・。
秋司が考えを巡らせていると、足に何かが当たった。
秋司は視線を足元に向けると、ツパイの様な生物が怯えながら秋司を見つめていた。
「大丈夫?」
秋司はしゃがみ込み、優しい口調で話しかけるが、ツパイの様な生物は怯えて震えながら動かない。
「どうした? 秋司ー」
秋司の動きが止まったのを感じた柊真は、秋司の右隣りへ着地した。
「ん・・・。何かあったのか?」
柊真は秋司の視線の先にいるツパイの様な生物に、しゃがんで話しかける。
「・・・。怖い人たちがいて、みんなを襲っている・・・」
「えっ・・・。柊真くん、なんて言っているか分かるの?」
ツパイの様な生物の小さい鳴き声を聞いて、通訳する柊真。
秋司は驚きながら柊真の方を見る。
「いいや、ハッキリとは分かんねー・・・。ていうか、分からないけど、なんとなくそんな感じがする」
「そ、そうなんだ・・・」
でも、なんとなく分かるの、凄いっ。
「えーっと・・・。みんなを逃すために、カクレテンが一人で立ち向かっている・・・、だとぉーー」
今まで冷静に通訳していた柊真だったが、カクレテンのことを聞くと、急に大きな声が漏れた。
「カクレテンって・・・。一日目の夜に、一緒にご飯を食べた動物?」
「・・・。盗まれた・・・な。ああ。あの子かは分からないけど、あの動物だよ」
「うっ・・・。どこにいるか聞いてみて」
「ああ」
柊真はツパイの様な生物に質問すると、返事が返ってきた。
二人の中では、完全に柊真がその生物の言葉を理解していることになっているが。
「この先真っ直ぐ・・・、だってよ」
柊真の言葉を聞くと、秋司はすぐに走り始めた。
「ありがとな」
柊真は満面の笑みでツパイの様な生物にお礼を言い、秋司を追った。
「はあはあ・・・。どこにいる・・・」
秋司は全力疾走で走りながら辺りを見る。
すると、一人の業血司使いが倒れているカクレテンに向かって水放を放っていた。
くっ・・・。
今から血転図式を描いても、間に合わない・・・。
秋司はカクレテンの上に覆いかぶさるように、間に入った。
この子・・・、この前の子かな・・・。
「くっ・・・」
水放は秋司の背中に命中する。
「誰だぁー? お前はー? まあいいや」
秋司は後ろを向くと、密猟者の一人、へムンが秋司に話しかけながら血転図式を描いている。
まずい・・・、避けられるか・・・。
秋司がカクレテンを抱きかかえて、その場を離れようとすると同時に、ヘムンは水放を放つ。
しかし、ヘムンの右横から柊真が右拳で殴りかかり、ヘムンは右手だけを秋司に向けたまま身体を柊真に向け、後ろに下がってそれを避け、その行動によって水放は秋司に当たらなかった。
柊真はそのままヘムンと近接戦闘を行う。
「柊真くん・・・。あっ、大丈夫?」
秋司は戦っている柊真を心配そうに見つめていると、両手で抱えられているカクレテンはそこから下りて地面に着地する。
じーっと秋司を見つめたあと、どこかへ去って行った。
秋司はカクレテンを少しの間見送った。
「ぐはっ」
そんな秋司の背後から柊真が秋司の右横に吹っ飛んできた。
「くっそー・・・」
「柊真くんっ」
秋司は柊真が立ち上がるのを手伝い、二人はヘムンに視線を向けた。
「お前ら、灯詠の生徒か?」
「ああ、そうだ。それがなんだー?」
ヘムンは無表情で二人を見つめながら小さな声で尋ねた。
その問いに、柊真は勢いよく大きな声で答える。
「そうか・・・。灯詠の生徒・・・。ふっ・・・。ふっはははははっ。じゃあ・・・、殺すか」
ヘムンは大きな笑い声を上げると、狂気的な笑みを浮かべ、それでいて鋭く冷たい視線を二人に送る。
「これ以上この森を混乱させない」
「ああ。それにはこいつを倒さねーとなっ」
秋司と柊真は真剣な表情で鋭い視線をヘムンに向け、戦闘体勢に入る。




