57話 ライトニングガゼルとニバシシオザル
「俺は左の奴をぶっ飛ばす。さっきニヤニヤして煽ってきた奴だから」
「うん。分かった」
草原で密猟者と戦い始めようとしていた柊真と秋司。
「ガキが。鬼ごっこはおしまいだ・・・ぜっ」
密猟者Aは柊真に接近し、近接戦を仕掛ける。
柊真は密猟者Aの右ストレートを左に移動して避けると同時に右拳を腹部に当てる。
次に飛んでくる左フックもしゃがんで避け、今度は左拳を腹部に当てる。
「く・・・。ぐがっ」
後退した密猟者Aの右頬に左ハイキックを当てる柊真。
近接戦は完全に柊真が優勢だ。
「血転術岩転、岩棘」
「血転術風転、風出」
秋司と密猟者Bは距離を保ちながら血転術の属性術を打ち合っている。
密猟者Bは岩棘を放ったが、秋司の風出によって八つの石は吹き飛ばされ、風出はそのまま密猟者Bに命中する。
「ぐはっ」
うーん、風出は命中したけど、授業で習ったようにはできていないな・・・。
業血司を上限いっぱいまで送れていない。
つい、焦っちゃう・・・。
うーん、それなら、焦らないでいられる状況を作ろう。
「血転術岩転、岩挟」
密猟者Bは岩挟を放ち、秋司の足元の少し左右から円柱型の岩が秋司の脇腹目指して伸びてくるが、秋司はジャンプしてそれを避ける。
「血転術風転、風昇」
秋司はジャンプしながら血転図式を描き、風昇で密猟者Bを空中に吹き飛ばす。
密猟者Bがジャンプした秋司と同じ高さまで飛んでくるところを狙って、血転図式を描き、上限いっぱいまで業血司を送る秋司。
密猟者Bを風で吹き上げ、バランスを取れないようにして、自分が焦らずにすむ状況を作り出した秋司。
「血転術氷転、氷乱」
秋司は自分が今放てる最大威力の氷乱を放った。
「ぐわああ」
四つの氷の塊が全て密猟者Bに命中し、密猟者Bは後方へ吹き飛び、やがて地面に背中から落下する。
「よしっ、うまくできた。柊真くんは・・・」
秋司は柊真の方を見ると、柊真の右ハイキックが密猟者Aの左頬に命中して、意識を失う密猟者Aの姿が映った。
凄い威力・・・。
柊真くんは体術が凄い。
「おーい」
秋司と柊真が密猟者を倒すと同時に、諒介とカズセがその場にやってきた。
「諒介くんとカズセくん」
「秋司、敵が追いかけて・・・。あっ、倒したの?」
「うん」
秋司はカズセの声を聞いて、諒介とカズセに視線を向けた。
カズセは秋司たちを追いかけていた二人が、トラックに乗っていた人間だと伝えようとしたが、倒れている密猟者を見て、慌てた声から落ち着いた声に変わった。
「そっか。よかった、無事で・・・。あれ、リスタくんは?」
「リスタくんは・・・。あれ・・・」
諒介は安堵の声を漏らすと同時に、その場にいないリスタを心配した。
密猟者と戦っていたことで、リスタがいなくなったことに気が付かなかった秋司。
どうしよう。
またリスタくんとはぐれちゃった。
さっきまで向かっていた方向、つまりソルミレウ村がある方角に向かった可能性が高いけど・・・。
もう夜だし、このまま進むと森に入る。
どうしよう・・・。
「今日はここで休もう。もう夜だし。リスタなら平気だよ。明日朝から探そう」
秋司が悩んでいると、カズセが三人に声をかけた。
カズセくん。
そうだね。
朝一番から探しに行こう。
今進むと僕たち四人もはぐれちゃうかもしれないし。
でも・・・。
リスタくん、テント持ってきていなかったよね・・・。
秋司たち四人はその場にテントを立てて、夜ご飯を食べる。
「じゃあ、あいつらの狙いはライトニングガゼルとニバシシオザルっていう生物ってこと?」
「うん」
秋司は三人に、密猟者の目的について話すと、カズセが味噌味のカップラーメンを食べながら尋ねる。
「ライトニングガゼルは僕たちと同じ地下に誘われた動物だよね。そして、ニバシシオザルは明日捕まえると・・・。確かニバシシオザルは二日目の朝に僕たちが出会った小川がある森に生息しているって書いてあった気がする」
「あの森にいるの? 凄い諒介くんっ」
話を聞いた諒介は、図鑑を読んで学習していたニバシシオザルの生息地について話した。
その言葉を聞いた秋司は目を大きく開き、驚く。
その後、諒介に勢いよく近づく秋司。
そっか、あの森にいるんだ。
生息地が分かれば、ニバシシオザルを捕まえられずに済むかも。
「ところで、そのライトニングとニバちゃんはどんな動物なんだ?」
柊真は猪肉を頬張りながら尋ねる。
「ライトニングガゼルはこのエリアの草原に生息している珍しい動物で、戦闘力は低いんだけど目が凄く良くて、足もめちゃくちゃ速いんだって。その上、急カーブや急ブレーキもできて機動力が高く、予想外の動きができるんだ。移動に関しては最高クラスの動物だよ。大きいから仲良くなれば乗ることができるし」
「そうなんだ。どのくらい速いの?」
「もう、すーごっく速いらしいよ」
「へぇー。競争してみてーな」
諒介の説明をご飯を食べながら興味津々に聞く三人。
諒介もテンションが上がっているのか、カズセの疑問に大きな声で勢いよく答える。
凄く速いと聞いて柊真は目を輝かせながら笑みを浮かべる。
「ニバシシオザルはこのエリアの、いくつかの森に生息している珍しい動物で、戦闘力はあんまりだけど、血転術の生成術が凄いんだって。凄い練度で、達人の域に達しているらしいよ。不思議な力や特別な力を持つ道具も作れちゃうくらい生成術が得意みたい」
「そうなのー。すごーい」
凄い・・・。
生成術は僕も使えるから、難しさがよく分かる。
不思議な力や特別な力を持つものなんて、作れる気が全くしないし。
諒介の解説を聞いて、目を輝かせながら大きな声で反応する秋司。
見てみたいなぁー。
ライトニングガゼルのスピードも、ニバシシオザルの生成術も見てみたい。
四人は少しして、明日に備え、眠りに就いた。
同じ時、秋司たちがいる位置からソルミレウ村に向かう道中で、秋司たちから一番近くに位置する森の中に、疲れ切って仰向けに横たわっているリスタの姿があった。
ずっと持っていた骨付き肉の姿はなく、リスタが無事に食べていた。
「はぁー。疲れた・・・。ところで・・・。なんでテメェーが俺の寝袋で寝てんだよー」
リスタが自分の寝袋を見ると、その中にノガアラシが入っていた。
温かいのか、既に爆睡しているノガアラシ。
「あの野郎・・・。明日起きる前に、食ってやるからなー」
リスタは仰向けのまま、右拳を胸の上で握り締め、歯を食いしばり、ノガアラシに鋭い視線を向け、やがて眠りに就いた。




