55話 連れ去られたガゼル
フィーべ東部のエリア三。
その中心より少し西側︎にある森の地下。
秋司と諒介、カズセの三人は地下に入ったと思われる柊真を探していた。
階段を下り終え、地下に入ると、馬やガゼルが歩いていた。
秋司が入り口を壊し、出口ができると、馬とガゼルは階段を上り、地上へ出て行く。
うーん、どういうことだろう・・・。
業血司使いの狙いは、馬やガゼルを捕獲することじゃないのかな。
でも、牢屋みたいな部屋がたくさん並んでいる。
牢屋の中に馬やガゼルの姿はないけど。
秋司は地下の通路を歩きながら、辺りを見渡す。
馬やガゼルの姿は見えるものの、その全ては通路を歩いているもので、牢の中には馬とガゼルの姿は見えなかった。
「おーい・・・」
「柊真くんっ」
柊真くんの声だ。
秋司と諒介、カズセは目を合わせ、声がする方へ向かって一斉に走り出した。
確かこっちの方から聞こえたはず。
「ドンっ」
ん?
なんだろう。
秋司たち三人が走っていると、何かがぶつかっているような衝撃音が聞こえてきた。
秋司たち三人は衝撃音が鳴っているところへ向かった。
あれは、ガゼル。
ガゼルが扉に向かって頭突きしている。
衝撃音の正体は、一匹のガゼルが扉に向かって頭突きしているものだった。
ガゼルは勢いよく頭突きしているが、扉はびくともしない。
「あのままじゃ、ガゼルの身体が持たない」
諒介はガゼルに近づく。
諒介が近づいて来るのを感じたガゼルは、諒介に向かって頭突きをしようと、突進する。
「危ない・・・。血転術結界・・・。血転術土転、土固」
その様子を見た秋司は、瞬時に諒介とガゼルの間に結界の壁を張ろうとしたが、ガゼルに衝撃を与えないようにするため、足元を土で固める土固に切り替えた。
ガゼルの足を土で固め、動きを封じた秋司。
諒介はガゼルの頭上で右掌を広げ、左手で回復術の基本図式を描き、発動図式に三つ葉を二回描く。
傷を治す回復術だ。
諒介くん、回復術使えるんだ。
諒介は属性術と結界術の他に生成術、召喚術、そして回復術を扱うことができる。
ガゼルの頭にできた傷がどんどん回復していく。
ガゼルは土固で動きを封じられている間も落ち着きがなかったが、傷が回復すると、落ち着きを取り戻し、動きを止めた。
その様子を見た秋司は土固を解除した。
「よかった・・・。でも、どうしたんだろう・・・。ガゼルは基本的には穏やかな種が多いはずなんだけど・・・」
ガゼルが落ち着いたのを確認して、安堵の声を漏らした諒介。
それと同時に、疑問も漏らす。
うーん、このガゼル、扉に頭突きしていたよね。
でも、扉は無傷・・・。
秋司はガゼルが頭突きしていた扉に視線を向け、思考を巡らせる。
「結界? この扉に結界が張ってあるのかも」
「ううっ・・・。うん。全然びくともしない」
秋司の声を聞いて、カズセは扉を開けようと、右肩で力強く押すが、少しも動かなかった。
結界が張られている。
なんで?
ここに入られたら困るってことかな。
でも、それなら僕たちが入って来た入り口にはなんで張っていなかったんだろう?
「おーい、誰かいんのかー」
「柊真くんっ」
秋司が考えを巡らせていると、柊真の声が聞こえてきた。
三人は声のする方へ向かうと、柊真が牢の中に捕まっていた。
「柊真くんっ」
「秋司かっ? カズセと諒介も。あっ、そうだ。急がないと。ここから出してくれっ」
「うん、少し離れて。血転術雷転・・・」
「ちょっと待ったー。それはダメだー」
秋司が鉄格子に雷拳を放とうとするのを、両掌を秋司目掛けて突き出し、焦った表情で止める柊真。
「えっ・・・? 鍵も見当たらないし、壊そうかと・・・。ダメかな?」
「あいつが言っていたんだ。この牢屋に強い刺激を与えると、爆発するって」
えー。
そうなのー・・・。
危なかった・・・。
じゃあ、鍵を見つけるしかないのかな。
でも、それらしいものは近くには見当たらないし。
これを仕組んだ業血司使いが持っていたら、時間がかかる。
そうだっ。
「柊真くん、結界術使えるよねっ?」
「あっ? ああ、使えるけど」
柊真は属性術に結界術、身体術、回復術、生成術を扱うことができる。
「柊真くん、結界の壁を張って自分を守って。諒介くんとカズセくんはここから離れて」
「おう、分かったけど・・・。何するんだ?」
秋司の声を聞いて、結界の壁を張りながら首を傾げて秋司を見つめる柊真。
諒介とカズセはその場から距離を取って、秋司を見つめる。
秋司は自分の正面に結界の壁を張る。
その後、風転、風出の血転図式を描き、結界の壁に全身を隠しながら、右手だけを壁の外に出して発動する。
秋司は風出を発動してすぐに右手を引いて結界の壁に隠す。
風出は鉄格子に当たると、鉄格子を破壊し、そのまま柊真の結界に命中する。
そして強い衝撃を受けた牢は爆発する・・・ことはなかった。
「あれっ・・・? 爆発しない・・・?」
「・・・。その業血司使いに、見事ーに騙されたね」
爆発しなかった牢を見て、安心よりも疑問が勝っている柊真。
呆然としている柊真に、カズセはゆっくりと近づきながら少し煽るように話しかけた。
「く・・・。あいつー・・・。そうだっ、急がないと」
「どうしたの?」
柊真は自分を騙した業血司使いを思い出して、右拳を顔の近くで握り締める。
しかし、何かを思い出して、慌てる。
諒介は心配そうに柊真に声をかける。
「あいつら、ガゼルを四匹、無理やり連れて行きやがったんだ」
「・・・。そっか・・・」
うーん、これでハッキリした。
これを仕掛けた業血司使いの目的は、やっぱり動物の捕獲。
そうなると、扉に頭突きをしていたガゼルは仲間を追いかけようとしていた・・・?
だから、あそこには結界が張られているのかも。
逆に言えば、あの扉の先からガゼルを連れ去ったってことだ。
「柊真くん。業血司使いと会ったんだよね?」
「おう。ニヤニヤ舐めた顔してた」
「あはは・・・。他には何か言っていなかった?」
「んー。あーっ。目的はガゼルで、このガゼルは利用価値が高いとか言っていたような。少なくとも、食べるために連れ去った訳じゃないと思う」
秋司の、一つ目の疑問には顔に力を入れて答えた柊真。
二つ目の疑問には視線を上に向けて、思い出しながら答える。
目的はガゼル。
諒介くんいわく、このガゼルは珍しい種。
利用価値が高いってことは、何かに利用されるってことかな?
何かに利用するために無理やり連れ去るなんて、ひどい。
秋司の全身に力が入る。
ちなみに、フィーべでは動物の強制的な捕獲は禁止されている(その場で食べる目的で、トラップなどを仕掛けて一時的に捕獲状態になってしまう場合は許される)。
動物の意志で人間について行く場合は、人間がフィーべ政府に許可を取ることで、連れて行くことが可能になる。
しかし、動物の強制的な捕獲を全て把握して防ぐことなどできず、また動物の意志でついて行くのか、そうでないかを完璧に見極めることもできていないのが現状。
そのため、フィーべに住む動物を無理やり連れ去る目的で、密猟者がフィーべに足を踏み入れることも多々ある。
「急がねーとっ」
「うんっ。あっ、待って柊真くんっ。そこには結界が・・・」
「いってぇーー」
柊真と秋司は勢いよく走り出し、柊真は扉に向かって突っ込んだ。
扉に結界が張られていることを知っている秋司は慌てて声を出すが、間に合わず、柊真は結界に衝突した。
秋司は倒れた柊真が起き上がるのを手伝い、その間に諒介は扉に張られている結界を解き始めた。
「あいつら、ぜってーぶっ飛ばしてやるっ」
「うん。無理やり連れて行くなんて、許せないよ」
柊真と秋司は力強い表情で扉を見つめる。
「・・・。かっこいいこと言ってるけど、柊真、涙目だよ?」
「うっ・・・。うるせー」
柊真は結界に衝突した痛みで目に涙が浮かんでいた。
そんな柊真を、ニヤニヤしながら煽るカズセ。
少しすると、諒介が結界を解き終え、扉が開く。
四人は急いで階段を駆け上がった。
あれ、何かを忘れているような・・・。
秋司は階段を駆け上がりながら、少し首を傾げた。




