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満月の夜に猫は微笑む  作者: 涼木あきこ
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【番外編】その二

 例の事件が解決して、二ヶ月が経った頃の話である。

幸人のもとに一通の手紙が届いた。

学校の下駄箱の中に、イニシャル「A.K」とだけ書かれた封筒が入っていた。

「颯介、今日ちょっと孤児院まで来てくれない?相談があるんだ。」

深刻な顔をして、幸人は俺に言ってきた。

幸人がこんな顔をしているなんて珍しい――初めて見たかもしれない。

俺は放課後、孤児院に行くことにした。


 「これなんだけど……」

幸人は寄り道することなく、自分の部屋に入るなり、一通の手紙を俺に見せた。

「え、なに?なに?なに?ラブレター!?」

俺はからかうようにして聞いた。

「わからない。まだ中身を見てないから……」

「なんでだよ!早く見ろよ!ほらっ!俺が読んでやるから!」

俺は幸人から、手紙をひょいっと取り上げ、音読した。


 幸人くんへ

私のことなんて、覚えていないかもしれないけれど、

私はどうしても忘れられなくて、手紙を書いてしまいました。

この前は、教科書を見せてくれてありがとうございました。

初めて会ったときから優しくしてくれて、とっても嬉しかったです。

ずっと、お礼をしたいと思っていました。

よかったら、明日の放課後、学校の裏庭に来てもらえませんか?

待ってます。

A.Kより


 「なぁ、幸人。A.Kって誰?」

俺が聞くと、幸人は頭を捻らせた。

「同じクラスにはいないから、選択授業で一緒だった子かもしれない。」

「なるほど。学年全体の名簿とかって、まだ持ってたりする?」

「あるよ。ちょっと待って……」

そう言って、幸人は入学時のクラス分けの名簿をがさごそと取り出した。


 俺と幸人は、同学年のイニシャルがA.Kの女子を三名、見つけた。

「片桐亜里沙」

「菊池あずさ」

「工藤亜美」

この三名のクラスは、全員、別である。

「聞いたことのある名前は?」

俺は幸人に聞いた。

「全員、選択授業で一緒だよ。多分。でも、まだ名前と顔が一致しなくてね。」

「今までに教科書を見せたことがある回数は?」

「数えきれないな……毎回のように、誰かしらに見せている気がするよ。」

「まじか。お前は本当に、誰にでも優しいよな。」

「僕も、人は選んでるつもりだけどね。嫌な人には関わらないようにしてるだけさ。」

幸人はそう言って笑った。

俺は、好奇心で三人について調べてみることにした。

タイムリミットは明日の放課後――まだ時間はある。


 翌日、俺はそれぞれのクラスで聞き込み調査をした。 

片桐亜里沙、彼女は水泳部で、大会に出ると必ず賞をもらって帰ってくる期待の一年生らしい。

その代わり、授業中は眠っていたりで教師からの評判はあまりよくないそうだ。

菊池あずさ、彼女は書道部で、中学の書初め大会では毎回金賞を獲っていたらしい。

授業の態度も真面目で、教師からも一目置かれているそうだ。

工藤亜美、彼女は帰宅部で、毎日のようにバイトをしているらしい。

学費も自分で工面しているとの噂があるそうだ。


 幸人にそれらの情報を共有したが、見当がつかないといった様子だった。

幸人は間違いなくモテるはずなのに、もったいないなと俺は思ってしまった。

「颯介、ありがとう。僕、行ってくるよ。」

そう言って、幸人は裏庭へと駆けていった。

俺は、その様子が見えるところへと移動し、観察することにした。


 幸人が裏庭で待っていると、そこへ一人、柄の悪い男がやってきた。

もしかしてあの手紙は、優しい幸人をはめるための罠だったのか!?

俺は急いで、幸人の元へ向かった。

俺が裏庭に出ると、柄の悪い男が幸人に近づいていくのが見えた。

「待て!幸人に触れるなーーーーー!」

気が付いたら、俺は叫んでいた。


 「ちょっ!颯介!いきなりどうしたの。」

幸人が俺に言った。

「え、だって、お前、この柄の悪そうなやつに絡まれてたんじゃ……」

「違う、誤解だよ。この人は、金子明くん。この手紙をくれた張本人さ。」

きょとんとしている俺の傍らで、金子が言った。

「やだぁん!幸人くん、この手紙、他の人にも見せてたのぉ?恥ずかしいわぁ。まぁ、今回は許してア・ゲ・ル♥じゃあまたね、幸人くん♥」

気が付くとそこにはもう、金子の姿はなく、手作りのお菓子を持った幸人だけが立っていた。


 幸人も文章の内容からして、最初はてっきり女子からの手紙だと思ったらしいが、実際は金子明という男子生徒からの手紙であったと俺に話した。

俺が三人の女子生徒を調べているときにはもう気づいていたらしいが、俺が楽しそうにしているのを見て、言い出しにくくなったらしい。

「僕が襲われると思って、心配した?」

幸人は俺をからかうようにして言った。

「当たり前だろ!まったく……」

俺が少しいじけると、幸人は笑った。

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