魔法
青柳さんの病室を出た後、溝端刑事が俺に言った。
「……これで満足したか?」
「ああ、満足したよ。ありがとう、溝端刑事。」
「もう俺には、一生のお願いは使えないからな!忘れるなよ!……そういえば、お前に何か言わないといけないことがあったような……」
「言わないといけないこと?」
「ありゃ、なんだったかな?まあ、思い出したらまた連絡入れる。」
そう言って、溝端刑事は手をひらひらさせながら去っていった。
別れ際によく、青柳さんがやっていた仕草だ――
溝端刑事と別れてから、俺は久しぶりにムタに会いに行くことにした。
この道も、今となってはなんだか懐かしく感じる――
ムタと初めて会った通りを抜けて、いつも話をしていた路地裏へ向かう。
「久しぶり!ムタ!あれから事情聴取やらなんやらでいろいろと忙しくって、なかなか会いに来られなかったんだ。ごめん。幸人も青柳さんも無事だよ。安心して。」
俺は室外機の上にいたムタに声をかけた。
「ニャー!」
「おい、ムタ。何ふざけてるんだ?」
「ニャー!ニャー!」
「どういうことだ?どうして喋らないんだよ?ムタ……!」
俺が何度呼びかけても、ムタが喋ることはなかった。
そもそも、猫が喋ること自体、おかしな話であることは俺もわかっている。
猫の声が聞こえて、その猫から自分の正体を調べてほしいと言われて、事件に巻き込まれて、それが十六年前の事件と関連してて――そして、その猫の正体が十六年前に死んだとされている俺の父親であることを知った。
俺とムタの出会いは、運命だったのだろう。
「運命だとは思わないか?この出会いを。」
会ったばかりの頃に、ムタが言った言葉――お互いに感じていたものは間違いではなかった。
この運命の出会いは、十六年前の真実を突き止めるための魔法だったのかもしれない。
そして、十六年前の真実を突き止めることができたから、その魔法が解けてしまったのかもしれない。
俺が柄にもなく、そんなことを考えていた時――溝端刑事から電話がかかってきた。
電話に出ると、溝端刑事の大きな声が耳に響いた。
「おい!至急、病院まで来てくれ!言わなければならないことを思い出した!」
「それって、電話では済まないこと?」
「そうだ!とにかく来い!」
そう言って、溝端刑事は一方的に電話を切った。
溝端刑事が俺に言わなければならないことってなんだ……?
一連の事件については一通り話したし、思い当たることは何もなかった。
俺は疑問に思いながらも、とりあえず、病院に戻ることにした。




