隠れた復讐心
青柳さんは、俺の言葉を聞いて、ニヤリと笑った。
「嬉しいよ、颯介。そう言ってくれて。僕は、赤川からもその言葉が聞きたかったのかもしれない……」
「青柳がまさか、こんな感情を抱いていたとは……どうして当時、何も気づいてやれなかったんだろう……」
ムタは後悔しているようだった。
自分は過去に、青柳さんに爆弾で殺されているというのに――
赤川刑事、いや、俺の父親は、本当にヒーローのような人だったのだろうと俺は思った。
だが、気が付かないのは当たり前だと思う。
青柳さん自体も、自分の感情に気が付くのに、時間がかかりすぎたわけなのだから。
「幸人っ!幸人っ!」
俺は何度も幸人の名前を呼んだ。
「あははっ!どうだい?目の前で大事な人が死んでいく姿を見るのは!僕のことを殺したい、本当はそう思っているんだろう?」
青柳さんは、俺を煽った。
「ダ……メだよ……颯介……挑発に……乗った……ら。」
幸人は、息も絶え絶えに言った。
「喋るな、幸人!待ってろ!俺が必ず……!」
「颯介!!僕を殺したいんだろ?言ってみろよ!!」
青柳さんが大声で言った。
その時――一瞬の出来事だった。
美紗が、青柳さんの方に向かって走り出し、後ろ手に隠し持っていた包丁を振り上げた。
「はああああああああああああああああ!!!!!」
美紗は、青柳さんの右肩を思いっきり刺した。
「ぐあぁぁぁあああぁぁぁあぁぁあ!!!!!」
青柳さんは、右肩を押さえながら、獣のような叫び声をあげた。
「美紗!!!!!」
美紗の目には、明らかな殺意が見えた。
俺は、この時の美紗の行動に驚いていた。
十六年前の事件について知ってしまってから、美紗の様子がおかしかったのは、俺も幸人も気が付いてはいたのだが、ここまでの復讐心と殺意を産んでしまっていたとは、思いもしなかった。
美紗は、包丁を構え直した。
「許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!」
美紗は、右肩を抱きながらしゃがみこんでいる青柳さんに向かって、再び包丁を振り上げた。
「美紗!!!止めろーーーーーー!!!!!」
俺は大声を出して美紗を止めようとしたが、美紗は既に包丁を振り下ろしていた。
間に合わない――そう思った時、俺の真横を何者かがすり抜け、風が吹いた。
「美紗ちゃん!ダメよ!目を覚まして!!!!!」
駆け付けたみゆき先生が、包丁を持つ美紗の手を掴んで止めた。
「どうして…?どうして、止めるんですか?幸人も、幸人のお父さんも、颯介のお父さんも、私のお父さんも、先代の施設長さんも……みんな、みんな、この人のせいでいなくなってしまったんじゃない……!!!」
美紗は、震えながら言った。
「待っ……て……僕は……まだ……生きてるよ……勝手に……殺さない……で。」
「幸人は喋るなって!」
俺は、喋ろうとする幸人を制止した。
「どうして?どうして、みんなは平気でいられるの?目の前に全ての元凶がいるというのに、どうして!?」
「あははははは!いいね、美紗ちゃん。そういうの、僕、すごく好きだよ。」
青柳さんは右肩を押さえたまま、美紗に言った。
「私は大っ嫌い!私をあなたと一緒にしないで!」
美紗は大きな声で言い放った後、気が付いたかのように、ハッとした顔をしていた。
「美紗、お前はそっち側じゃないだろ?俺たちの味方なんだろ?それなら、もう止めるんだ。」
俺がそう言った瞬間、美紗は膝から崩れ落ちた。
「美紗ちゃん!」
崩れ落ちた美紗を、みゆき先生が抱きしめた。
「みゆき先生、ありがとうございます。私を止めてくれて、本当にありがとうございます。」
美紗は感謝の言葉を伝えると同時に、みゆき先生の腕の中で泣いた。




