宣戦布告
青柳さんが、俺に向かって発砲した瞬間、俺は反射的に目を閉じてしまった。
あれ、どこも痛くない――
恐る恐る目を開けると、そこには、血を流して横たわる幸人がいた――
「おい、幸人っ!!幸人っ!!しっかりしろ……!!」
横たわる幸人を仰向けにし、傷を確かめた――俺をかばって、脇腹を撃たれたようだ。
「……ほら、言ったでしょ……?僕が颯介を裏切るときは……颯介を守るときだって……」
そう言って、幸人は俺の顔を見て微笑んだ。
ショック症状がでてきており、幸人の目は、微笑みながらもうつろになっていく。
さらに冷や汗も出てきて、身体が小刻みに震えてきた。
「かわいそうに、幸人くん。本当は颯介が死ぬところだったのにねぇ。」
青柳さんは、楽しそうに笑いながら言った。
「施設長!!今すぐ、救急車と警察を呼んで!!」
俺は大声で言った。
施設長は持っていたスマートフォンを取り出した。
その時――
「パアンッ」
再び銃声が鳴り響き、銃弾が施設長のスマートフォンを貫いた。
「ちょっと待ってよ、颯介。まだ僕の話、終わってないんだよね。」
俺は、せめてもの応急処置をと思い、幸人を仰向けに寝かせたまま、両足を高く上げ、ベルトを緩めて、羽織っていたパーカーを幸人にかけた。
神様がいるとするならば、どうか幸人を救ってくれ……俺はただただ、そう願っていた。
「今日から一緒に、ここで暮らすことになった幸人くんだ。みんな、仲良くしてあげてね。特に颯介、美紗!君たちは同い年だからね。」
「みんな、よろしく。」
幸人が初めて、この児童養護施設にやってきたときのことは、よく覚えていた。
顔は笑っているのに、目の奥は笑っていない、俺にはそんな風に見えたのだ。
それに幸人は昔から、自分のことよりも他人を優先するところがあった。
それを俺は、中学生の頃に指摘したことがある――今思えば、そのことがきっかけで、幸人とちゃんと仲良くなれた気がする。
「あのさ、お前は自分のこと、どうでもいいと思ってるの?」
俺はオブラートに包まず、ストレートに言った。
その時の幸人の驚いた顔は、今でも忘れられない。
「……うん。そう、だね。正直、自分のことはどうでもいいと思ってる。誰かが笑っていれば、それでいいやって。何か問題ある?」
この時も、顔は優しく笑っていながら、目は笑っていなかったっけ。
「ダメだろ、そんなの。誰かの犠牲の上に成り立っている『幸せ』なんて、俺は全く嬉しくねぇな。」
「あははははははは!何、犠牲って!言い過ぎだよ……あはは。」
真面目に言ったつもりだったのだが、俺の言葉のチョイスがツボだったようで、この時、幸人は本当の笑顔を見せてくれた気がした。
「はは、僕がこんなだからさ、本気で話してくれる人っていなかったんだよね。」
幸人が自分のことについて、少しずつ話してくれた――これが初めて、心を開いてくれた瞬間だったのかもしれない。
「幸人っ!しっかりしろ!必ず、助けを呼ぶから……!」
俺は青柳さんの声を無視していることに気が付かず、幸人に声をかけ続けていた。
「パアンッ」
すると、もう一発、銃声が鳴り響いた。
「僕の話を聞けよぉぉお!!!!!」
青柳さんは叫ぶようにして言った。
「これ以上、話すことって何かある?俺、最初は思ったんだ。青柳さんも、何かに悩み続けた結果、こうなってしまったのなら救ってあげられないかってさ。でも、俺の大事な人を何人傷つけたら気が済むんだ?俺を殺せば、かつて得たような快感が得られるのか?俺はもう、お前を救おうとは思わない……!!」
俺は青柳さんに、宣戦布告をした。




