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満月の夜に猫は微笑む  作者: 涼木あきこ
43/54

心中

 俺は十六年前の事件を起こしたきっかけが知りたかった。

「青柳さん、十六年前の事件を思いついたのはどうして?青柳さんは、別にお金に困ってたわけじゃないだろ?」

「それはすっごくいい質問だね、颯介。極論を言うとね、刑事という仕事が、つまらなくなったからだよ。」

青柳さんは涼しい顔をしてそう言った。

「それで?青柳さんは満足したの?楽しかったの?」

俺は青柳さんを質問攻めにした。

「ああ。すごくいい刺激になったし、すごく楽しかった……僕はヒーローなんかじゃない、その時にそう確信した。」

青柳さんは空に浮かぶ月を見上げながら、そう言った。

「でも、僕はそれだけじゃ満足できなかった。」


 「赤川と青柳コンビは本当に優秀だなぁ!」

当時の警部に言われる度に、何かが違うと感じていた。

褒められるのが嫌なのか――?

いや、そんなことはない。

自分の実績が、赤川の評価にもなっていることが嫌なのか――?

いや、そういうわけでもないはずだ。

始めのうちは、その感情がなんなのか、自分でもわかっていなかった。

様々な事件を赤川と解決していく度に、その感情はどんどん強くなっていった。

とあるひったくり犯を捕まえたときのこと、被害者の女性が言った言葉。

――「まるで、ヒーローね。」

その言葉を聞いて、僕がなりたいのはヒーローじゃない……と思った。


 「満足できなかった……?銀行強盗事件を起こして……関係のない人を二人も殺して……先代の施設長も殺して……満足できなかった……?」

俺の怒りは、頂点に達していた。

幸人の父親を殺し、美紗の父親を殺し、施設長の父親のような存在を殺し、それでもまだ足りない?

俺の大事な人たちの人生を、尽く踏みにじっておいて――

気が付いたら俺は、持っていた懐中電灯を手放して、青柳さんの胸倉を両手で掴んでいた。

「あっははは!颯介にこんなことをされる日が来るなんてね。まあ、想像はしてたけどさ。十六年前から。」

そう言った青柳さんに、俺が殴りかかろうとしたその時――

「やめなよ。颯介。そんなやつ、殴る価値もないと思うけど。」

幸人と美紗が、青柳さんの後ろに見えた。

「幸人!?それに、美紗まで……」

俺は青柳さんを掴んでいた手を、パッと放した。

「おや、全員集合だね!ますます楽しくなってきたじゃないか!」

青柳さんが幸人と美紗の方を向いて、笑いながら言った。

「お前ら、どこから聞いてた……?」

「ごめん、全部聞いてた。颯介の様子がおかしかったから……美紗と一緒に、ついてきたんだ。」

幸人と美紗も、十六年前の真相を聞いていたらしい。


 「改めて、教えてあげるね。僕が十六年前の銀行強盗事件を計画した首謀者だよ。幸人くん、それに美紗ちゃんのお父さんも、あの事件で死んじゃったんだよね……かわいそうに。」

青柳さんは、また他人事のように言った。

幸人のことは、俺は心配していなかった――俺よりもずっと大人だからだ。

心配なのは、美紗の方――芯をしっかり持ってはいるが、その芯が時々揺らいでしまうところがある。

美紗の方を見やると、涙を浮かべているのだろうか――目元が光って見えた。

幸人と美紗のお蔭で正気を取り戻した俺は、青柳さんに聞いた。

「満足できなかった後、どうしたんだ?」

「銀行強盗のときのような快感を、再び得たくなった。だから、赤川を殺す計画を立てたんだ。ちょうど奥さんを亡くして傷心状態だったけど、「妻のためにも、今できることをやるんだ」と銀行強盗事件の解決に躍起になっていた。それも、僕にとっては気に食わなかったんだよ。いつまでもヒーロー気取りでさ。」

「それで、赤川刑事――俺の父親をおびき寄せるために俺を使った、と。」

俺は青柳さんに言った。

「その通りだよ、颯介。」

青柳さんは続けた。

「僕は何度か、代わりに颯介の様子を見てきてほしいと赤川に頼まれていた。その時間を利用して、看護師のいない時間、監視カメラの位置を全て把握した。そして颯介、君を誘拐して、脅迫状を病室に置いたんだ。」

「『○○区△△の倉庫へ来い。さもなければ、子供の命はない。愛護屋』だっけ?」

俺は、ムタに聞いた脅迫状の内容を言った。

「なんでそれを、颯介が知っている……?あいつはもう、ここにはいないはずなのに……」

青柳さんは、明らかに動揺しているように見えた。

「それで?まだ全部聞いてないぜ。指定された場所に向かった父さんは、どうなったの?」

「僕は近くのビルから望遠鏡で見ていた。君を抱いてね。倉庫の中に入っていく赤川を暫く見て、爆弾を見つけたくらいのタイミングを見計らって、爆弾のタイマーをオンにしたんだ。あとの説明はいらないだろう?そして、数日後にこの児童養護施設の前に颯介を置けば、全行程終了、と。」

青柳さんはそう言った。


 俺にはまだ聞きたいことがあった。

「それで、青柳さんの気は済んだの?俺の父さんを殺して、気が済んだ?」

「ははははは……颯介、君はいつもそう質問が多いね。……赤川を殺して、待っていたのは『無』だった。もっと快感が得られると思っていたのにね。さっきの話に繋がるんだけど、赤川は僕とは正反対の人だと思っていたんだ。一緒にいるのが、ものすごく苦痛だった。好きでこの仕事をしている赤川と、そうではない僕。」

「だから、赤川のことが鬱陶しかったんだと気が付いた。でも、その僕にとっての鬱陶しいものを排除したら、残ったのは『無』だったんだ。不思議だよね……そこで一つ、気が付いたんだ。僕は赤川のライバルになりたかったんだって。颯介にわかるように言うと、シャーロック・ホームズとモリアーティ教授みたいなね。」 

青柳さんは俺に向かって、そう言った。

「青柳さんが今まで俺の面倒を見てくれてたのは、何で?」

「颯介、君が、また赤川のような、僕と対になってくれる存在になるんじゃないかと思ったからだよ。」

青柳さんが俺を見ていつものように、微笑んでいる。

「そうだな。俺は少なくとも、青柳さんのような刑事――人にはならないし、俺と対になる存在というのも認めない。俺はいつでも正しくありたいから。」

俺は、今思っていることを正直に話した。

「よく言ったぞ、息子よ!流石は俺の息子!」

ムタが言っているのが聞こえた。

俺は周りに気付かれないように、ムタにウインクをした。

「ははは……またそうやって、ヒーロー気取りか……颯介。それが気に入らないんだよ。」

青柳さんが狂気じみた顔をして、俺を睨みつけた。

「さっきから青柳さんの話、矛盾してない?ヒーローが存在しなければ、その対も何もないじゃん。父さんのライバルになりたかったんじゃないの……?」

俺はそう言った。

「颯介、いつからそんなに揚げ足を取るのが上手くなった……?生意気なんだよぉぉおおおぉ!!!!!」

青柳さんが隠し持っていた拳銃で、俺を捉えた。

「パアンッ」

「颯介!!!!!危ない!!!!!」

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