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満月の夜に猫は微笑む  作者: 涼木あきこ
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首謀者と共犯者

 俺はすぐに言葉が出てこず、立ち尽くしていた。

「どうしたの、颯介。失望しちゃった?……ヒーローじゃないんだよ!僕は!」

「どうしてだよ……」

暫くして、俺の口をついて出た言葉に対して、青柳さんは言う。

「どうして……?はははっ、その「どうして」は何に対する「どうして」かな?とりあえず言っておくとね?全部、仕組まれていたことなんだよ。ま、僕が全部仕組んだわけだけど。みんなのヒーローであったはずの、僕がね!で、颯介。君は真実が聞きたいかい?」

怒りなのか悲しみなのか、よくわからない感情が渦を巻き、今にも泣きだしそうだった――その時。

「覚悟ができたんじゃなかったのか?」

ムタの声が聞こえた。

そうだった――俺は全てを知る覚悟をもって、ここに来たはずだ。

「……全部教えてもらうよ、青柳さん。」

俺の言葉を聞いた青柳さんはフッと笑った。


 そして青柳さんは、二つの事件について話し始めた。

「十六年前の銀行強盗事件を計画したのも、今回の連続殺人を計画したのも僕。今回の連続殺人については、この年に実行することも決めていた。颯介、君を巻き込むためにね。」

「俺を……巻き込むため……?」

「前に話しただろう?大人になると、楽しくなることを自分で作るしかないって。僕はヒーローになりたくて刑事になったんじゃない。刺激を求めて、刑事になったんだ……!それなのにあいつは……!赤川はヒーローでいることにこだわった。君のことだから、もう気が付いているとは思うけど、君は赤川正史の息子だ。君が高校生になった頃に、この事件を起こすことを決めていた。そして、十六年前の真実を自分で見つけたとき、君がどんな顔をするか見たかったんだ!」

青柳さんは目を見開いて、そう言った。

「なんてやつだ……」

ムタが俺の隣で呟き、俺の方を心配そうに見上げている。

「なるほど。なんで今になって……と思ってたけど、そう言うことか……続けて。」

俺が表情を崩さずに言うと、青柳さんは拍子抜けしたような顔をしていた。 


 「まずは、十六年前の犯行グループの中でも、一番気性の荒かった篠原に話を持ち掛けた。後藤と大山が例の暗号を解いてしまったかもしれないと嘘を吹き込んだ上で、二人を殺して僕たち二人で五千万円を分けよう、と。篠原はすぐに話に乗って来たよ。殺害計画は二件とも僕が立てて、篠原に共有した。篠原の拳銃の腕前はすごいんだ。学生時代は、海外で過ごしたそうだよ。」

青柳さんは笑いながら話した。

「酷い話だな。後藤も大山も、暗号は解けていなかったはずだ――大山については、もう関わることをやめると書いていた。それに、拳銃の腕を磨くのは人を殺すためではない……誰かを守るためだ……」

ムタはそう言った。

「第一の事件、後藤さんをマジックショーの最中に殺したのも、そのマジックショーに俺を誘ったのも、事件に巻き込むためだったってわけか……続けて、青柳さん。」

俺は青柳さんに、話を続けるよう促した。


 「後藤の件はほとんど、前に颯介が言ってた通りだよ。篠原に仮面を付けさせ、マジックショーの演者の中に紛れ込ませる。監視カメラの場所も全て僕が把握して、共有していた。どのカメラにも映らないように。上手く事が運べば、アシスタントの女が容疑者として捕まる予定だった。だが、一つだけ想定外のことが起きてしまったんだ。そのアシスタントの女に、銃をすり替えていたところを見られてしまった。篠原はすかさず、銃の不調を説明したみたいだけど、アシスタントの女は、銃の造りを全く知らなかった。その後は、仮面を外して、誰にも見られずに裏口から出て、観客に紛れるだけ。簡単なトリックだろう?」

青柳さんは第一の事件について、話した。

大体は、俺が想像していた通りだった。


 「次は、第二の事件、大山さんをライブ中に殺したことについて。青柳さんは、俺があそこに行くことを知っていたのか?」

俺は青柳さんに聞いた。

「大山の件は、本当にたまたまだったよ。颯介から連絡があったのには、すごく驚いた。でも、ちょうどよかった。颯介に第一の事件と関連があるかもしれないと、連絡をする手間が省けたからね。日程については、大山が野外ライブをやる日に合わせて実行することにしたんだ。銃声が聞こえて、大山がステージ上で倒れたら、観客は四方八方に逃げていくだろう?そこに紛れれば、撃った方も簡単に逃げられる。ライブとなれば、後ろを気にする人はいないだろうし、見られることもないしね。正面にいた大山には、ダイイングメッセージを残されてしまったようだけど。まぁ、仮面をつけていれば、少しの距離があれば誰かはわからない。」

青柳さんは第二の事件について、話した。


 もう一つ、俺には気になっていたことがある――俺たちが大山さんのマンションから出たときに逃げていった車について。

「あの車についても教えてよ。目的は何だったの?」

「目的は、前にも話したように、大山の備忘録を処分するためさ。僕たちがマンションを出たら、入れ替わりで侵入させて、処分させるつもりだった。まさか、幸人くんたちに先に見つけられちゃうとは思ってなかったんだ。でも、万が一のことも考えていてね。颯介たちに先に見つけられたら、篠原には逃げるように言ってあった。予め、合図を決めておいたんだ。逃走ルートを指定して、港に追い込み、海に飛び込むまで、全て僕の計算通りだよ。」 

青柳さんはにっこりと笑って言った。


 俺はこの逃走後から、何かが引っかかっているような気がしていたが、今気が付いた。

青柳さんはこのとき、「あの女性で間違いない。」と言っていた。

真っ暗で顔も見えなかったあの状況で――どうしてあの時、気が付かなかったのだろう。

「そして、篠原さんを最後に殺したのか。初めからそのつもりだったわけ?」

俺は青柳さんに聞いた。

「うん、そうだよ。例の暗号が解けてから殺すつもりだった。施設長さんの部屋に盗聴器を仕込んだのは、僕だよ。施設長さんが『ガブリエル』と呟いたあの夜、颯介と別れた後にね。受信機は篠原に渡してあった。思ってたよりも早く見つかっちゃったけどね。篠原は暗号が分かってすぐ、僕に何も言わずに、児童養護施設に下調べに来たんだ。」

青柳さんは淡々と話した。

「そう、颯介と車の中で話していたあの夜にね。警察が見張ってるとも知らずに、馬鹿だよねぇ。わざと見失ってあげたけどさ。あの後、篠原から暗号が分かったから会って話がしたい、と白々しく電話が来たよ。僕は港に向かって、篠原と会った。その時、篠原が僕に銃を向けたんだ。だから、正確には正当防衛だよ。」

青柳さんはそう言った。

「篠原さんを殺してしまい、暗号の手掛かりがなくなった青柳さんは、俺を利用したってわけか。」

「そうだよ。颯介なら、僕を信じて教えてくれると思っていたからね。」

「ねぇ、青柳さん……篠原さんを、一回でも仲間だと思ったことはなかったの……?」

気が付いたら、俺はそんなことを聞いていた――答えは分かっているのに。

「なかったよ。一度もね。」

そう言った青柳さんの目は、笑っていなかった。

ムタはそんな青柳さんの様子を、ただじっと見つめていた。


 暫くの間、静寂が俺たちを包み込む――

「青柳さん、十六年前の銀行強盗事件についても、聞かせてもらえますか。」

そんな中、施設長がその静寂を破って、青柳さんに言った。

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