表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満月の夜に猫は微笑む  作者: 涼木あきこ
33/54

記憶の断片その四

 事件現場から戻ったムタは、いつもの室外機の上に飛び乗った。

ムタは、別れ際の颯介の様子が少し気になっていた。

だが、そこまで心配はしていなかった。

「あいつのことだ。すぐに気が付くだろう。いい友達もいるようだしな。」

そのことよりも、いろいろと気になることがあった。

猫たちから聞いた話もそうだが、それよりも――

「やはり、あの匂い……どこかでかいだことがある。」

ムタはそう確信していた。

猫の嗅覚は人間の嗅覚の数万倍から数十万倍あるとされている。

「しかし、何の匂いなんだ……?」

そんなことを考えながら、ムタは眠りについた。


 ――ここはどこだ?

見渡すと、そこは葬儀場だった。

中央には、笑顔の素敵な女性の写真がある。

気が付くと涙がこぼれ落ちており、止めようとしても止めることはできなかった。

これから、どうしていけばいい――?

そんな思いで、いっぱいになってしまっていた。

「何があっても、あの子を守るって言ってくれたじゃない!」

一人の女性が泣きながら、裾を掴んできた。

彼女の母親だろうか。

その言葉と同時に、今、自分のやらなければならないことを思い出した。

妻が弱ってしまうきっかけを作った、銀行強盗事件の犯人を、絶対にこの手で捕まえてやるんだと、気持ちを切り替えた。


 妻が残してくれた子供は、暫くの間は病院に預けることにした。

自分は刑事として、銀行強盗事件を追っていて、なかなか家には帰ることができなかったし、義理の父母は、娘を亡くしたショックで、当分の間は子供の世話ができる状態ではないと判断したからだ。

だが、この判断は間違いだったのかもしれない――


 数週間が経った頃、事件は起こった。

「颯介くんがいないんだけど、誰か知らない!?入浴の時間はまだのはずなんだけど、見当たらないの!」

「まさか、誘拐かしら……!?でも、誰が……」

「と、とにかく、防犯カメラを見てみましょう!」

少し離れたナースステーションから、看護師たちの焦る声が聞こえてきた。

「さっき見に行った時にはいたはずなんだけれど……あ!赤川さん!!大変です!颯介くんがいなくなってしまって……今から、防犯カメラを確認してみようと思いますが……」

話を聞き終わる前に、気が付くと駆け足で、息子のいる病室へと向かっていた。


 息子がいたはずの場所には脅迫状が置いてあった。

脅迫状を握りしめたまま、犯人がまだ近くにいるかもしれないと思い、全速力で走った。

「赤川さん!防犯カメラには不審な人は映ってなかったです!一体、誰が……」

看護師の言葉を無視して、外に飛び出した。

自分の車の中で、脅迫状の内容を改めて確認する。

「○○区△△の倉庫へ来い。さもなければ、子供の命はない―――」

差出人が書かれている。

何かのアナグラムになっているようだが、何と書かれていたかは、はっきりと思い出せない。

どうして、妻だけでなく息子の命まで奪われなければならないんだ――


 ムタはハッと飛び起きた。

辺りはまだ暗い――街や店の灯りも消えている。

今回は、夢の中での自分の記憶がはっきりとしていた。

ムタは思った。

こんなにツイていない男が存在するだろうか――と。

妻が亡くなった数週間後に息子が誘拐されて――

だが、あの差出人のアナグラムだけが、どうしても思い出せない。

「……あれ?あの看護師、俺のことなんて言ってたっけ……赤川?ってことは、俺の正体は、かつて青柳とコンビを組んでた赤川正史!?待て、子供の名前も出てきたな。えっと、確か……颯介ぇぇぇぇぇ!?待て、落ち着け、俺……!!いや、落ち着けるわけがないじゃないか!!早くあいつのところに行かなければ……!!」

ムタは室外機から勢いよく飛び降り、颯介の元へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ