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満月の夜に猫は微笑む  作者: 涼木あきこ
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裏切り

 「ムタ、ちょうどよかった。」

帰ったらすぐに、ムタに話しに行こうと思っていたため、探す手間が省けた。

俺はムタに、今に至る経緯を全て話した。

「ほう……マンションの下で逃げたやつと盗聴器を仕掛けたやつは同じ女ねぇ……」

ムタはなんだか、納得がいかないといった顔をしていた。

「何か気になることでもあんのか?」

「ああ……やはり、盗聴器のシールの跡が気になるな。それに、盗聴器の中でも発見されやすいコンセント型を選んだというのも妙だと思わないか?……仕掛けたのは、もう一人の方かもしれない。前に二人で話しただろう?十六年前の犯人はまだ二人存在している。その二人が共犯である可能性もあるかもしれない、と。」

「えっと、盗聴器を仕掛けたのは、十六年前の事件の首謀者の男の方だって言いたいの?」

「その通り。」

俺は考えた――確かに、今までの女性の行動は慎重かつ冷静で、用意周到だったはず。

「そうか……仕掛けたのは首謀者の男で、外されたことがわかって、女の方が仕掛け直しに来た。」

俺はそう推理した――だが、ムタは違ったようだ。

「いや、女は盗聴器を仕掛け直しに来たのではないと思うぞ。」

「どういうことだよ?」

「暗号が示している場所が児童養護施設であることがわかったんじゃないか?仕掛けた盗聴器を通じて。」

ムタはそう言った。

「なるほど……だとしたら、さっきは偵察に来たってところか。」

「ああ、その通り。」

「ちょっと待て……!じゃあもう、五千万円の在りかがバレたってこと?」

「――俺の推理が合っていれば、恐らく……」

俺の問いに、ムタはそう答えた。


 ――共犯であったとしても、目的が五千万円を独り占めすることならば、きっともう一人、被害者がでるはずだ。

少し前に、俺とムタはそう推測していた。

「やっぱり俺らの推理、間違ってるかもしれないぜ?五千万円の在りかがわかるまで、二人で協力していたわけだろ?今になって、裏切るってあり?」

俺はムタに言った。

「……俺はどちらかが、必ず裏切ると思っている。」

「……どうして?」

「人間ってもんは、欲深いものなんだよ。自分の娯楽のためだとか、くだらない理由で、人の大事なものを平気で奪っていく。俺はそういう人間をたくさん見てきた。お前はまだ純粋だ。大人になるにつれて、見たくないものまで見えてきたりするもんだ。……なんて、お前にはまだ早い話だったかな。今のは忘れてくれ。そのうちわかるさ。」

「そのうちわかる……か。その言葉、さっき青柳さんにも言われたよ。」

「あのへらへら警部も、そんなこと言うんだな。少し意外だ。」

ムタが笑いながら言った。

「お前、青柳さんのこと馬鹿にしすぎじゃね?……そう言えば、青柳さんも施設長が言った「ガブリエル」って言葉を気にしてたな。俺にも聞いてきたくらいには。」

「ほう……それで、お前は何と答えた?」

「施設長が言いたくなさそうだったし、聞かなかったって。嘘をついた。」

「そうか……お前、あいつのことは信頼しているようだから、てっきり話していると思った。」

「約束したじゃん。暗号のことは二人の秘密だって。」

「急になんだ、お前、かわいいところもあるじゃないか。」

「別に、かわいくねーし!」

猫にかわいいと言われるのは、なんだか不思議な気分だ。


 ムタと話しているうちに、もう一つの疑問が出てきた。

「なあ、ムタ……今思えば、どうして施設長の部屋に盗聴器が仕掛けられてたんだろう?まるで、施設長が何かを知っていると、犯人も知っていたみたいじゃないか?」

「それは、俺も気になってはいた。他の箇所にも複数仕掛けられていた、とかならわかるんだが、施設長の部屋にピンポイントで仕掛けられていたとなると……」

ムタも頭を抱えていた。

気が付かないうちに、偵察されていたのだろうか。

そもそも、俺たちも施設長から「ガブリエル」という言葉を聞くまでは、施設長が暗号の手掛かりになるなんて、一切、思いもしなかった。

ということは、犯人もあの場にたまたま居合わせたということだろうか。

見えそうで見えない――謎は増えていく。

俺もムタも、少しもやもやしていた。


 そして翌朝――ムタの推測通りのことが起きてしまった。

それは、青柳さんからの電話で知ることとなった。

「颯介、例の女が今日、遺体で発見された。今回も銃殺だよ。」

「そっか……」

――俺は、この事件に巻き込まれて初めて、恐怖に震えた。

昨日まで仲間だった人物を、人はこうもあっさりと、切り捨てることができるのかと。

青柳さんの声が電話越しに聞こえてくるが、内容が全く頭に入ってこない。

「颯介?大丈夫?何かあったのかい?」

ふと気が付いた時には、青柳さんが俺を心配している声が聞こえた。

「ごめん、後でかけ直すよ。」

俺はそう言って、電話を切った。

こんな俺の様子を見て、放っておかない人物がいる。

そう、幸人だ。

「颯介、顔色悪いよ。何かあったの?」

案の定、幸人は俺を見て、声をかけてきた。

「お前は、俺を裏切らないよな……?」

俺自身もよくわからないが、そんな言葉が口をついて出た。

「何があったかわからないけど、裏切るわけないよ。もし仮に、僕が颯介を裏切るときは、颯介を守るためかもしれないね。」

そう言って、幸人ははにかんだ。

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