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満月の夜に猫は微笑む  作者: 涼木あきこ
29/54

盗聴器

 俺たちは急いで児童養護施設へと戻った。

「施設長!!!!!」

俺たちはすぐに施設長の部屋へ向かい、施設長の安否を確かめた。

「颯介?幸人、美紗、みゆき先生まで……どうしたんだい?そんなに慌てて。」

施設長はまだ何も気が付いていないようで、急に押しかけてきた俺たちに驚いていた。

「施設長、さっき電話したとき、ここにいた?それと、この部屋のコンセントはいくつある?」

俺は小声で施設長に尋ねた。

「うん、さっき電話くれたときは、この部屋で出たよ。コンセントについては、この机の下に一つと、ベッドの裏に一つあるけど……それがどうしたんだい?」

俺が小声で喋るのに合わせて、施設長も小声で喋ってくれた。

念のため、持っていたハンカチで、二つのコンセントを慎重に外した。

「あれ、こっちは買った記憶があるんだけど、こっちのコンセントは記憶にないな……」

施設長がそう言って、ベッドの裏にあった方のコンセントを指さした。

俺はハンカチでコンセントを掴んで、裏側を見た。

そこには、シールを剥がした跡があった。

確認後、俺はコンセントを元の場所にゆっくりと挿し直した。

「颯介?」

幸人や美紗が、心配そうに俺に声をかけた。

俺はみんなに声を出さないようにと、唇に人差し指を当てながら言った。

「これは盗聴器だ。いつから仕掛けられていたのかはわからない。今、これを壊してしまったら、仕掛けた犯人にバレてしまう可能性がある。そうなった場合、何が起こるかわからない。このままにして、明日、青柳さんに来てもらおう。」

施設長は一瞬、渋い顔をしたが、盗聴器を仕掛けられているとなれば話は別――施設長も了承した。


 俺たちは、施設長の部屋を出た。

俺は早速、盗聴器が仕掛けられていたことを青柳さんに報告し、明日、児童養護施設まで来てもらう約束をした。

「施設長、俺たちの部屋に来るか?」

「盗聴器がある部屋で寝るの、気持ち悪いでしょ?」

俺と幸人は施設長に言った。

「二人ともありがとう。私は大丈夫だよ。いつものように一日を過ごすだけさ。気にせず、寝なさい。美紗も。今日は遊びに行って疲れているだろうからね。」

施設長はそう言って、自室へと戻っていった。


 「美紗、大丈夫か?」

少し不安げな顔をしている美紗に、俺は声をかけた。

「大丈夫よ。盗聴器のことは明日、青柳さんに何とかしてもらえるのよね。それなら、安心だわ。それと、今日はとても楽しかった。ありがとう。それじゃあ、おやすみなさい。」

美紗はそう言って、自分の部屋へと入っていった。

美紗を見送った後、俺たちも部屋に戻った。

「また、変なことになったね。」

幸人が俺に言った。

「ああ……このあと、何もなければいいんだけど……」

「何かあったら、相談してよ?僕たちは家族も同然、なんでしょ?」

幸人はニヤニヤしながら、そう言った。

「ははっ。そうだな。いつもサンキュー、幸人。」


 俺は一旦、外の空気を吸ってくると言い、まだ児童養護施設内にいるであろうムタを探した。

――しまった!お土産……いや、今はそれどころではない。

「ムタ!」

「颯介、帰ってたか。お土産は?」

「ごめん、忘れた!今、それどころじゃないんだ!」

「……また何かあったのか?」

ムタは俺の表情を見て、何かを察したようだった。

「施設長の部屋に盗聴器が仕掛けられてた。いつからかはわからない。コンセントの裏にシールを剥がした跡があったんだ。盗聴器によくある、チャンネル名を示すシールを剥がしたんだと思う。例の女の仕業だと思うか?」

「盗聴器か……まずいな。施設長の昔話を聞いたのは確か、施設長の部屋で…だったよな?」

「ああ……あの暗号、解かれてしまうかもしれない。」

「颯介、シールを剥がした跡が残っていたと言ったな。」

「言った。」

「例の女は、かなり用意周到だったはず。乗っていた車に指紋も髪の毛の一本も残さないほど。そんなやつが、シールの跡を残すと思うか?」

「それもそうだな……」

俺はムタの言葉を聞いて、確かにと思った。

「正面からは防犯装置が作動するはずだから、窓から侵入して仕掛けている途中に施設長が戻ってきた。慌てて取り付けて、また窓から脱出した。これだったらシールの跡についてはあまり気にならないけど……」

「例の女だとしたら、ここに来る前にしっかり剥がすだろうよ。」

「ごもっとも……」

俺はムタの言うことに、何も言い返せなかった。

「明日、青柳が来るんだろ?そのときにまたいろいろ聞いておいてくれ。明日の夜、また会いに来る。」

そう言って、ムタは去っていった。


 ――翌日。

盗聴器の件で、青柳さんと溝端刑事がやってきた。

「またお前か……っていうか、お前も何かと大変だな。」

何かと事件に巻き込まれる俺に、溝端刑事は同情しているようだ。

「別に、溝端刑事に同情される筋合いはないよ。」

「お前、本当にかわいくないな。」

「そりゃどうも。」

「褒めたわけではないんだがな……!?」

「はいはい、そこまでー。颯介、盗聴器はどこに仕掛けられていたんだい?」

青柳さんが、俺と溝端刑事の言い争いを止めた。

「……施設長の部屋だよ。」

青柳さんの表情が少しだけ曇った。

「施設長さんの部屋か……案内してくれるね?」


 俺は施設長の部屋に、青柳さんと溝端刑事を案内した。

施設長は席を外していた――恐らく、青柳さんが来ることを知っていたからだろう。

「颯介、施設長さんから何か聞いてる?」

青柳さんが俺に小声で聞いた。

「うん。あのベッドの裏にあるコンセント、あれは買った覚えがないって言ってた。」

俺も小声で答える。

溝端刑事は手袋をはめ、ゆっくりとコンセントを抜いて、ビニールの袋に入れた。

「あとは任せてほしい。盗聴器が外されたと分かった犯人が、また仕掛けに来るかもしれない。そこを取り押さえる。児童養護施設には今晩から暫くの間、僕と溝端くんが交代で見張りに来るからね。施設長さんにもよろしく伝えておいて。」

そう言って、施設長と溝端刑事は一旦、帰っていった。


 その後すぐ、俺は施設長に、警察が暫く見張ってくれることになった旨を伝えた。

「そうか……でも、私の大事な子供たちに危害が加わるのは避けたいからね……」

施設長はまた渋い顔をしている。

「俺らはもう子供じゃないよ。」

「あはは、そうだったね。」

そう言うと、施設長はいつもの笑顔に戻った。


 夜になると、溝端刑事がやってきて、児童養護施設の傍に車をつけた。

約束通り、児童養護施設に不審人物が侵入しないか見張ってくれているようだ。

それから暫くして、ムタがやってきた。

俺は、溝端刑事には見えない場所から手招きをして、ムタにいつものベンチに来るよう促した。

「どうなった?盗聴器は。」

「溝端刑事が取り外したよ。盗聴器が外されたことを知った犯人がまた仕掛けに来るかもしれないから、今晩から暫くの間、見張ってくれるって。」

俺は経緯を話した。

「そうか。前にも言ったが、俺も暫くは通うぞ。」

「今日は溝端刑事が来てるから、見つからないようにな。」

「げっ!あいつも来ているのか……それは面倒だ。」

ムタはため息をついていた。

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